畑に出ない「農家の右腕」とは?

私は「農家の右腕」として、栃木県宇都宮の阿部梨園で経営改善を提案し、推進してきました。外から経営分析や戦略立案をするような「コンサルタント」ではありません。従業員として毎日現場に常駐し、チームの輪の中に入り、自ら実行主体として頭だけでなく手を動かし続ける、そんな働き方です。自分の生活もキャリアも農園にすべて賭け、同じ船に乗って一蓮托生の挑戦を続けてきました。

結果として、現場目線で農家の気持ちや悩みに深くシンクロできるようになり、最終的にはその気持ちが自分に憑依するようにして、理解と協力を求めて切実な声を張り上げるまでになりました。

畑に出て梨は作らなくとも、バックオフィスや経営管理、販売促進から接客まで、現場班と同じ責任感で張り合ってきました。ときには補佐役、ときには先導役を務め、アメもムチも、理論も感情も駆使しながら難局を乗り越えてきたつもりです。そんな農家の右腕という働き方から、参謀役の勘所とエッセンスを紹介します。

個人農家の経営改善とは?

現場目線で見渡すと、課題の山が、圧倒的な解像度で目の前に迫ってきます。忙しさに追われて未着手だった、やるべきことが山積しています。私たちはその未開の山を伸びしろ、ポテンシャルの塊としてとらえ、課題を処理しつつ、利益と事業の持続性を追求してきました。

派手な設備投資やブランド・リニューアルなどではありません。むしろ、既にある良いものを大切にし

て、今日の業務をちょっとでも良くできる工夫はないか、農園に必要な小さくチャレンジできる新しいアイデアはないか、そんな事を考えて実践し続けた部分最適の積み上げです。

これは農業に限らず、大半の産業が抱えている難題です。技術や文化を守り存続させる意識は大切ですが、そのためには、経営や商売など、時代に即してスタイルを変えていかなければいけない部分も多々あります。まさに阿部梨園のスローガンにもある、「守りながら、変えていく」姿勢が必要です。

色々足りない超零細の個人経営農家でもこれだけ変われたなら、他の産業では、私たち以上に状況が好転する可能性があるはずです。そう考えれば、阿部梨園の事例は他産業にとっても、何らかの希望になり得るかもしれません。実際に、私たちの事例をタネにアクションを起こしている方々が、農業界外にも現れつつあります。

経営改善事例を公開するクラウドファンディングとは?

経営改善に着手した当時、参考になる情報がなく暗中模索、悪戦苦闘した経験から、私たちの経営改善実例をインターネット上の「阿部梨園の知恵袋 | 農家の小さい改善実例300」というサイトで無料公開しています。これはクラウドファンディングをとおして、330人から約450万円もの支援金を制作費として預かって実現されました。

農家の「経営を改善する」ということ。

クラウドファンディングを通して、仲間と話題を業界から一挙に集める方法、特に「初期費用を支援金でまかないつつ、業界の暗黙知をオープン化する新しいギミック」は、予想以上に大きな成果を生み、小さな社会運動のようになりました。プロジェクト終了後も、理解者や賛同者が増え続け、活動の輪が広がっています。

転じて、現場からゲリラ活動的に社会に問題提起するアプローチと、レガシー産業でのノウハウオープン化の強力な可能性についても、読み取っていただけるのではないかと思います。