儲かる農業 攻める企業#1
Photo by Hirobumi Senbongi

岩手県議会議員を経て、農家や漁師が消費者と直接対話できる直販アプリを運営するポケットマルシェを創業した高橋博之社長は、食品流通の改革に挑む革命児だ。特集『儲かる農業 攻める企業』(全17回)の#1では、高橋社長に農産物流通の課題や改革の野望を語ってもらった。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

メルカリ、楽天とは違う
ポケマルの「共感」と「倫理観」

――ポケットマルシェ(ポケマル)とは何ですか。

 ポケマルは食のインターネット販売です。簡単に言うと1次産業に特化したメルカリのようなものです。ただメルカリと違って出品者は農家、漁師のみ。生産者がその時々の旬の食材を自分で値付けして販売し、お客さんが生産者にいろいろ質問します。

 例えば、「どうやって食べたらおいしいですか?」「息子はニンジンが嫌いなんですけど野菜セットのニンジンを減らしてくれませんか?」と尋ねます。すると農家が「ジャガイモを増やしてみますね」などと返信して、コミュニケーションしながら取引するんです。

 ポケマルを使って販売しているのは、全国各地の小中規模の農家さんが中心です。そういった人たちには、このままだとジリ貧だという危機感がある。これまでの市場流通だけでは食っていけない。じゃあどうすればいいかというと、商品の価値を理解してくれるお客さんに「言い値」で買ってもらいたいんですね。

 リアルのマルシェ(市場)がまさにそうなんだけど、月に1回しかやってないし、農家は街の中まで出ていかなきゃいけない。だったら生産現場にいながら生産者がマルシェをやれればいいなと思ってポケマルを創業しました。

 消費者がスーパーなどで得られる情報は、食べ物の値段や見た目、カロリーといった消費領域の話に限られます。こうした情報も大事ですが、決定的に欠けているのは、食材の裏側にいる生産者が自然に働き掛けて食べ物を育てるプロセスについての情報です。

 1次産業が他の産業と決定的に違うのは命を育てていることです。子育てと一緒で、病気になることもあれば死ぬこともある。そこにドラマがある。教育方針も生産者によって違う。できた食べ物が違うのは当然ですよね。

 しかし、現在の流通では、食べ物を生み育てるプロセスの美しさ、厳しさ、難しさ、素晴らしさが消費者に伝わっていない。そしたら安い方がいいって話になりますから、値段が下がって収入が上がらず、生産者が困っているのです。

 東日本大震災のときに岩手県大槌町に行って漁師と友達になって、魚を取ったり、ホタテを育てたりするのを体験させてもらった。「すげーな」と思った。都会から来たボランティアたちも同じ体験をして、漁師とコミュニケーションを取った結果、魚介類の価値が上がっていった。食べ物の裏側の情報が付加価値になった。

 これを震災時だけではなく、日常からやっていけば食べ物を作ってる人が食べられないなんてシャレにもならない状況が改善されるんじゃないか。それでポケマルという「場」をつくることにしました。

――現在の事業規模を教えてください。コロナ危機で変化はありましたか。

 現在、登録している生産者は2000人です。

 新型コロナウイルス感染拡大に関わりそうな変化として、2月末から、お客さんによる購入数と生産者の新規出品数が、どちらもこれまでの約1.6倍に増えている。新規会員登録数は約2倍になっています。