アベノミクス「第3の矢」である
成長戦略はおざなりに

 一方、アベノミクス「第3の矢(成長戦略)」は、日本経済の本格的な復活に重要とされた。だが、さまざまな業界の既得権を奪うことになる規制緩和や構造改革は、内閣支持率の低下に直結するので、先送りされ続けた。

 安倍政権からは成長戦略の実行に対する真剣味が感じられず、「支持率維持の道具」ぐらいにしか考えていないようだった。それを象徴するのが、16〜19年の間に経済産業相に起用された世耕弘成氏だ。初入閣で成長戦略のかじ取りをするには経験不足な一方で、長きにわたって、自民党の広報戦略を担ってきた人物の起用は、成長戦略を「支持率調整」に使いたい意図がよく分かる人事だった(第138回

 しかし日本の外に目を向ければ、国内の内閣支持率維持などというぬるま湯に漬かっている場合ではなかった。現在、米国と中国が貿易戦争状態となっている。中国のハイテク企業が米国の攻撃対象となり、最先端の技術を巡る競争となってしまった(第201回)。

 日本は高い技術力を誇ってきたつもりだったが、中国に完全に追い越された。日本は、米中の争いから「蚊帳の外」になっている、世界のハイテク技術の開発競争から完全に「周回遅れ」となっていることが明らかになった。

 そして、「コロナ禍」で人の移動や接触の自粛を求められたことで起こった、リモートワークと呼ばれる勤務形態やウェブ会議、教育現場の遠隔授業などさまざまな変化への対応を巡る混乱で、その遅れはより鮮明になっている(第249回)。

支持率維持の最優先を裏付ける
安倍政権の別の閣僚人事

 また、安倍政権は社会民主主義的な政策を数多く実行してきた。「働き方改革」「女性の社会進出の推進」(第177回)や事実上の移民政策である「改正出入国管理法」(第197回)、「教育無償化」や「子育て支援」など現役世代に対する支援策などだ(第169回・P3)。

 このことは、左派の野党の訴えるべき政策を奪って弱体化させて、安倍政権の基盤を盤石にした(第218回)。一方で、強力な支持者である「保守派」の影響を抑え込んだことは隠れた功績だ。伝統的な社会や家族の形態にこだわる保守の政策はいまや非現実的であり、日本の成長や改革の足を引っ張っていたからだ(第144回)。

 しかし、子育て支援や教育政策は、東京都や大阪府などの大都市圏の自治体が住民のニーズに的確に対応する一方で、自民党の中央集権的な政治は限界を露呈させた(第240回)。また、これらの政策も結局は支持率を維持するために場当たり的に出しただけだと批判されている。

 それを象徴するのも人事だ。15〜17年に加藤勝信氏(現・厚生労働相)は、内閣府特命大臣として「働き方改革担当相」「女性活躍担当相」「再チャレンジ担当相」「拉致問題担当相」「国土強靱化担当相」「内閣府特命担当相(少子化対策および男女共同参画)」を兼務した。

 まるで一貫性のなさそうなこれらの業務だが、「国民の支持を受けやすい課題」という共通点があり、加藤氏は事実上「支持率調整担当相」といえた。首相官邸に陣取り、支持率が下がりそうになったらタイミングよく国民に受ける政治課題を出していくのが真の役割だったのだ(第122回)。