「手術は無事終了しましたが、出血がありましたので、視力の回復は前回より遅くなるかもしれません。明日の診察まで、絶対目には触らないでくださいね」

 何が起きたのか。もしかしたら、再手術を要するような事態が起きたのではないか。心配していると、前回よりも痛みも強いような気がして、夕食もそこそこに寝込んでしまった。

 しかし、翌日の診察では、なんら問題なく眼帯を外され、保護メガネをしての帰宅を許された。

「あの、昨日の出血は大丈夫だったんでしょうか」

「あぁ、眼球からではなく、目の淵からでしたのでまったく問題ありません。皮膚が荒れていたみたいですね」

「先生が前回と違って、ぜんぜんお話しされないので心配していました」

「はは、すみません。2回目だから特に説明しなくてもいいかなと思っていました。そうですよね、出血したのに説明がないと不安ですよね。申し訳ない。でも、手術自体は前回よりもスムーズで、きれいにできました。安心してください」

 かくしてタダシさんは、人生で初めてといっていいほどの、良好な見え方を獲得した。一応、本当に近くを見なくてはならない時のために、術後2カ月目を目途に老眼鏡の購入を考えてはいるが、急ぐ必要はなさそうだ。右目は裸眼視力で1.2、左目は1.0まで回復し、スマホの画面もちょっと離すだけでメガネがなくても見える。メガネもコンタクトレンズも必要ない生活が、こんなにも自由で快適なものだとは。そして世界がこんなにも明るく美しいとは。

 1週間後の診察で、感動を伝えると医師は言った。

「よかったですね。このレンズは本当に評判がいいんですよ。この秋には、乱視矯正ができるタイプも発売されるので、今後の白内障手術では、このレンズが主流になるでしょうね。今は、保険適用になる多焦点レンズは1社のものだけですが、今後はほかの会社のレンズも出てくるのではないでしょうか」

※本稿は実際の事例・症例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため患者や家族などの個人名は伏せており、人物像や状況の変更などを施しています。

(医療ジャーナリスト 木原洋美)