世界的に有名な企業家や研究者を数多く輩出している米国・カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院。同校の准教授として活躍する経済学者・鎌田雄一郎氏の新刊『16歳からのはじめてのゲーム理論』(ダイヤモンド社)が発売され、たちまち重版となっている。本書は、鎌田氏の専門である「ゲーム理論」のエッセンスが、数式を使わずに、ネズミの親子の物語形式で進むストーリーで理解できる画期的な一冊だ。
ゲーム理論は、社会で人や組織がどのような意思決定をするかを予測する理論で、ビジネスの戦略決定や政治の分析など多分野で応用される。最先端の研究では高度な数式が利用されるゲーム理論は、得てして「難解だ」というイメージを持たれがちだ。しかしそのエッセンスは、多くのビジネスパーソンにも役に立つものである。ゲーム理論のエッセンスが初心者にも理解できるような本が作れないだろうか? そんな問いから、『16歳からのはじめてのゲーム理論』が生まれた。
各紙(日経、毎日、朝日)で書評が相次ぎ、竹内薫氏(サイエンス作家)「すごい本だ! 数式を全く使わずにゲーム理論の本質をお話に昇華させている」、大竹文雄氏(大阪大学教授)「この本は、物語を通じて人の気持ちを理解する国語力と論理的に考える数学力を高めてくれる」、神取道宏氏(東京大学教授)「若き天才が先端的な研究成果を分かりやすく紹介した全く新しいスタイルの入門書!」、松井彰彦氏(東京大学教授)「あの人の気持ちをもっとわかりたい。そんなあなたへの贈りもの。」と絶賛された本書の発刊を記念して、著者が「ダイヤモンド・オンライン」に書き下ろした原稿を掲載する。大好評連載のバックナンバーはこちらから。

カリフォルニア大学バークレー校准教授が教える「はじめてのゲーム理論」Photo: Adobe Stock

大手IT企業の収益を増加させた戦略

 グーグル、フェイスブック、ヤフー、eBay……大手企業のマネタイズ戦略の背後には、「ゲーム理論」がある。ゲーム理論をうまく使いこなすことが、収益増加に直結しているのだ。

 このゲーム理論、いったいどのような理論なのだろうか。「ゲーム理論」という言葉は、この記事を開いた方なら多くの人が耳にしたことはあるだろう。が、その内実はなかなか知られてないというのが、ゲーム理論家である私の正直な感想である。

 それはまさに、我々ゲーム理論家たちの情報発信の不足に起因する。申し訳ない。というわけで、ゲーム理論とは何か、紹介したいと思う。そしてゲーム理論の最重要概念である「ナッシュ均衡」の説明もしよう。

 ゲーム理論とは、2人以上の意思決定者がいるときに何が起きるかを予測する理論だ。「2人」とは、価格競争をする2企業かもしれないし、夫婦かもしれない。2人よりも多くの意思決定者が絡むこともある。たとえばソフトバンク・KDDI・ドコモの大手携帯キャリア3社かもしれないし、会議に出席する取締役10名かもしれない。

 どんな状況でも、ともかく意思決定者が2人以上いれば、それはもうゲーム理論の扱う範囲内だ。というか、そのような状況の分析にはゲーム理論が必要不可欠である。

 なぜ「2人以上」にこだわるかというと、「1人での意思決定問題」と「2人以上の意思決定問題」は本質的に異なるからだ。

 「1人での意思決定問題」、たとえば競馬で賭けるといった問題では、どの馬がどれほどの確率で勝ちそうかを予想し、一番収益が高くなりそうな馬に賭けたら良い。

 しかし「2人以上の意思決定問題」、たとえば2企業間での価格競争では、A社はB社の出方を予想して戦略を練るわけだが、その予想を立てるにあたっては、B社がA社の出方についてどう考えているかを考慮に入れなければいけない。

 もちろん「B社がA社の出方についてどう考えているか」というのは「B社がA社がB社の出方についてどう考えているかについてどう考えているか」ということに依存するわけであり……と、このように思考の連鎖が延々と続く。

 このような連鎖は、「1人での意思決定問題」にはない。たとえば馬や騎手は、あなたがどの馬に賭けたかを予想しながら走るわけではない。

 このように「2人以上の意思決定問題」は思考の連鎖のおかげで非常に複雑なので、分析するにはその連鎖を体系的に整理し直すという作業が必要となる。この作業を数学の言葉を使って遂行するのが、ゲーム理論である。