顧客にとって最善の判断、それ以上のことはしない

 CEOから直々に指示が来るなんて、自分が大物になった気分だった……はずがありません。私は彼女に電話をかけて謝罪しました。彼女は勝ち誇った口調で、とても意地悪でした。でも、がまんするしかありませんでした。

 私がすべて悪かったのです。いつも新入社員に教えていることとまったく同じことを、私自身が厳しいかたちで学ばされました。私たちの仕事は、顧客からザッポスを守ることではありません。「ザッポス警察」ではないのです。ザッポスの体験を提供すること、それが私たちの仕事なのです。

 私たちが直接話をするのは、何千万人というアクティブな顧客のうち、ほんの一握りの人たちだけです。そのごく一部の人のうち、さらにごく一部の人が、システムを悪用しようとします。そういう顧客と話をしながらポジティブな体験を提供するだけで、素晴らしい顧客に変わるかもしれません。私たちの仕事は緊張を高めることでも、会社を守ることでもありません。ザッポスの体験を提供することです。

 この女性が私たちから50ドルずつだまし取ろうとしていたとしても、たいしたことではありません。1人の女性と50ドルのクーポン数枚だけで、倒産することもありません。結局、彼女は電話をかけてこなくなりました。飽きたのでしょう。私たちに固執するのはやめて、どこか別の所で同じように繰り返しながら、私たちの文句を言っていることでしょう。

 現代社会では、私たちは反射的に自己防衛に走り、自分の主張を押し通して、相手をねじ伏せ、力を誇示したいと思いがちです。でも、意味のないことです。

 この場合、購入しては返品しているので、会社のコストはそれほど大きくありません。購入して、返品して、最後は自分を返品したのでしょうか。たいしたことではなかったのに、私がおおごとにしてしまいました。その必要はなかったし、会社にも誰にもプラスになりませんでした。

 ここでの教訓は─顧客にとって最善の判断をして、それ以上は何もしないこと。会社のためでも、自分のエゴのためでも、誰かのためでもなく、顧客にとって最善の判断です。

 顧客にとって最善の判断は、常に、会社にとって最善の判断でもあるのです。