ザッポスという会社をご存じだろうか。日本には進出していないアメリカのオンライン靴店なのだが、数々の伝説級のサービスとユニークなエピソードで全米、そして日本を含む世界中にファンがいるというかなり変わった会社だ。そしてこのザッポス、サービスも変わっているが、もっと変わっているのがそのマネジメント。ザッポスは世界最大規模のホラクラシー組織である。この10年のザッポスの伝説とマネジメントを自ら全公開したのが注目の『ザッポス伝説2.0 ハピネス・ドリブン・カンパニー』(トニー・シェイ+ザッポス・ファミリー+マーク・ダゴスティーノ著 本荘修二監訳 矢羽野薫訳)である。本稿では、特別に本書から一部公開する。

靴を運ぶザッポス社員

ザッポスブランドの擁護者を大量に生み出した大失敗

by アラン・ラジャン COO(耐久レースは水分補給が命運を分けるね)

 ミスは必ず起きます。配送の不手際、倉庫での取り違い、サイズや色の違う商品を顧客に届ける。販売量が大規模になると、特に配送に関して、ミスは避けられません。可能な限り完璧なシステムを目指して、間違いをなくそうと20年以上努力してきましたが、それでも起きてしまうのです。このようなミスは、私たちに限らず、顧客を不愉快にします。

 しかし、このときに多くの企業が、とてつもなく大きなチャンスを逃しています。ミスをチャンスに変えて、不満を持っている顧客をお得意様に変えるために、やれることをすべてやってはいないのです。

 顧客を幸せにするために私たちがどこまでやるか、極端な例を紹介しましょう。2017年12月のクリスマス直前に、私たちは迅速な配送をアピールするために、すべての人を対象に「12月23日正午までの注文は、クリスマスに間に合います!」というキャンペーンを展開しました。残された時間は2日と少しでした。

 数百万人の顧客にメールで告知してから1時間足らずで、発送センターから、もう限界だと連絡が来ました。これ以上は12月25日を過ぎるまで、1件も発送処理ができない、と。

 パニックが始まりました。注文が殺到していました。多くの顧客が、私たちが約束したクリスマスまでに商品を受け取れなくなるのです。

 緊急会議が招集されました。担当者全員が会議室に集まり、全体の流れを見直しました。発送センターの人員を臨時で増やせないか? 自分たちで配送トラックを用意する? ラスベガスからスタッフを派遣して配達をさせる?突拍子もないアイデアが飛び交うなか、CEOのトニーが言いました。

「無料にしよう」

 無料にしました。約束の期日までに商品が届かなかった人に、全額を返金したのです。すべて返金しました。

 注文は1万~1万5000件。かなり高額の商品もあります。さらに送料がかかります。計算してみてください。多くの企業では、財務部門が「ありえない! 何てことをしてくれたんだ!」と言うでしょう。

 でも、ザッポスでは成功談として語られています。ザッポスというブランドへの投資と考えたのです。やるべきことだったのです。

 サービスは私たちのブランドであり、私たちにとって顧客がすべてです。あれほど大勢の顧客をがっかりさせるなんて、ありえません。「ザッポスにクリスマスを台無しにされた」と言われるなんて、私たちのDNAが耐えられません。

 顧客のために金を使うことは投資です。私たちは顧客のためにできる限りの投資をします。カスタマー・ロイヤルティ・チームを見ればわかります。ザッポスの従業員約1500人のうち、およそ600人がカスタマー・サービスに直接、従事しています。私たちは顧客に卓越したサービスを約束しているのですから、そのための投資を惜しみません.