麻生氏の留任は、「アベノミクス」を今後も継続していくということだ。すでに、菅首相は自民党総裁選時に「アベノミクス」の成果を高く評価し、「引き継ぎ、さらに前に進めていきたい」と述べている。それ自体は特段驚くべきことではない。

 あえてうがった見方をすれば「森友学園問題」(第178回)から菅首相を守るために留任したという解釈が可能ではないだろうか。    

 「森友学園問題」については、「決裁文書の改ざん」に関わり、自殺した近畿財務局の職員、赤木俊夫さんの妻が、国や佐川元理財局長を相手に損害賠償を求める裁判を起こしている。だが、菅首相は、自民党総裁選の討論会で、この問題の再調査について、対応しない考えを示している。

 首相官邸の中枢で、森友学園問題の鎮静化に采配を振るっていた菅首相が「再調査」を認められないのは当然だ。しかし、野党やリベラルなメディアがそれに納得するわけがない。野党は再調査を求めて国会で追及を始めるだろう。そのとき、過去の経緯に関わっていない「新しい財務相」の答弁が安定しなかったら、野党の攻勢を許してしまうことになる。それを避けるためには、麻生財務相を留任させて、答弁に立たせるしかなかったのではないか。

首相の名を政策に付けるべきではない!批判しづらい空気はダメ 

 話はいったんそれるが、菅首相に求めたいのは、経済政策に「自分の名前」を付けないことだ。すでにメディアが「スガノミクス」と言い始めているが、首相本人がそれをやめるべきだ。筆者は、アベノミクスとは、異次元のバラマキで、斜陽産業を延命させただけで、成長産業を生まず、カネが切れたらまたカネがいる問題だらけの経済政策だと考えている(第163回)。

 なによりも深刻なのは、安倍首相の名前を付けた経済政策であるため、その間違いを認められなくなっていたことだ。日銀総裁や経済閣僚が、都合のいい数字だけを出して、アベノミクスの成功を強弁し続けた(第190回・p3)。

 特に、安倍首相が辞任を発表した後、「安倍首相、お疲れさまでした」というねぎらいの言葉があふれ、内閣支持率が突如20%近く上昇した。その空気の中で、安倍首相への批判がよりしづらい状況になった。

 今後は、政策に対する健全な批判による改善が封印されるのは、絶対によくない。菅政権では、このようなことはないようにしてもらいたい。だから、まずは経済政策に首相の名前を付けるのはやめるべきである。

留任以外も、安倍前首相に気遣った人事

 さて、菅政権の組閣・党役員人事は、安倍政権からの「継続」が強く打ち出されたものとなっている。安倍前首相が「やりたかった政策」(第252回・p4)だった、憲法改正、安全保障、教育政策は、今後も前首相が裏で操り続けるのではないかと思われるほど、前首相に気を使った人事となった。

安倍前首相の側近である下村博文氏は政調会長に起用された。憲法改正推進本部長時代には、安倍前首相の進めた「自衛隊の明記」という現実的で国民に受け入れられやすい改憲を目指した(第194回・p4)。また、文科相を経験し、保守的な教育論を持つことでも知られる。留任となった萩生田光一文科相とともに、保守的な価値観に基づく教育を推進していくだろう(第225回)。

 古今東西、さまざまな国で権力者が国民の思想信条、言論を統制しようとするとき、まず学校の統制を狙ってきた。「国民の人権の制限」と「国民の義務の強化」、家族の重視など「道徳の推進」という自民党の進める憲法改正は、教育改革と合わせ技にすればうまく進められるという狙いがあるのではないかと懸念される。

 そして、安全保障政策を担う防衛相には、安倍前首相の実弟・岸信夫氏が起用された。前首相の意向そのままに安全保障政策を進めるということが露骨に見える。

 安倍前首相は、退任直前にもかかわらず、敵基地攻撃能力の保有を含む安全保障政策見直しの検討を本格化させた。「先制攻撃」が可能になる能力との見方もできるもので、専守防衛を堅持してきた日本の安保政策を大きく転換させる可能性がある。これを、前首相は自ら仕切るつもりで、菅首相もそれを容認していると思われる。

 また、安倍前首相の今後の動きで懸念されることがある。