「自分がアクセスしやすくて、よく知っているから」
という理由だけで、事業や市場を選んではいけない

なぜ、アマゾンは<br />書籍をインターネットで売るビジネスから<br />始めたのか?田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役社長
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動する。日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。日本とシリコンバレーのスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めながら、ウェブマーケティング会社ベーシックのCSOも務める。2017年、スタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。著書に『起業の科学』(日経BP)、『御社の新規 事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『起業大全』(ダイヤモンド社)がある。

 具体的な「センターピン」事例を紹介しよう。アマゾンは1994年に立ち上がったときは、「Everything Store」(=全てのものを扱う店舗)ではなくオンライン上にある「Book Store」だった。

 アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾスは、創業当時から「Everything Store」を創り上げたいというビジョンを持っていた。しかし、手元資金が数十万ドルの状況で、その実現は不可能だった。

 では、どうしたのか?

 ベゾスは、コンピュータソフトウェア、事務用品、アパレル、音楽などスタートアップの候補になる20種類の仕事をリストアップして「インターネット」という新しいチャネルで売るには何が適切かを検討した。

 その結果、書籍をインターネットで売るビジネスが一番いいという結論にたどりついた。当時はアメリカ国内で取次は数社しかないため交渉がしやすい、本は規格が決まっていて管理しやすい、食品のように在庫を多く抱えても腐らないなど、本にするべきいくつもの理由があった。

 ベゾスは、ヘッジファンド出身で社債や株など金融商品の専門家だった(書籍の領域は素人だった)。もし、潜在的なターゲット商材候補の洗い出しをせずに「自分がよく知っている」という理由だけで金融商品をインターネットで販売する事業で始めていたら、今のような成功に至ったとは考えにくい。金融商品がインターネット上で扱われて主流になったのは、アマゾンが誕生した1994年からだいぶ時間がたった後だったからだ。

 「どこの市場をセンターピンにするか?」を考える場合、「自分がアクセスしやすくて、よく知っている市場」という観点だけに陥らないように気をつける必要がある。

 ベゾスのように、全体市場を俯瞰した上で、「潜在的ニーズが強く、かつ代替案が少ない市場」を狙うべきだ。