ソニーの吉田憲一郎Photo:John Sciulli/gettyimages

 ソニーの代表執行役会長兼社長CEOを務める吉田憲一郎氏(60)は2014年9月17日のことを覚えている。ソニーは地に落ちたと感じた日のことだ。

 この日、同社は上場以来初の無配を発表。当時、新設された最高財務責任者(CFO)に就いていた同氏は、記者会見で頭を下げ謝罪した。ウォークマンやトリニトロンで一世を風靡(ふうび)したソニーは、インターネット時代への対応で出遅れていた。同社にはiPhone(アイフォーン)のような製品がなく、利益もなく、一部からは未来もないと思われていた。

 吉田氏によると、ソニーが必要としていたのは、恐らく最も日本らしい解決策だった。すなわち「米国から学ぶ」ことだ。同社はかつてトランジスタラジオやテレビの技術を習得し、ソニーの名の下に音楽レーベルを立ち上げ、欧米流のコーポレートガバナンス(企業統治)を取り入れた。同社は2016年にゲーム機のプレイステーション部門を米カリフォルニア州サンマテオに移転。アマゾン・ドット・コムの有料会員サービス「プライム」などの教訓を生かし、プレイステーションにサブスクリプション(定額制サービス)を導入した。現在、数千万人の会員がいる。

 株価はこのところ急伸し、利益は年間5000億円強で安定している。新型コロナウイルス感染拡大はソニーのビデオゲームやストリーミング配信される映画への追い風となった。次世代ゲーム機「プレイステーション5(PS5)」は11月に発売される。だがサブスクのおかげで、もはや新製品発売だけに頼る収益構造ではない。その一方で、マイクロソフトが発売する「Xbox(エックスボックス)」最新モデルとの競争に直面し、スマートフォン部品などの一部事業はコロナ下の経済的逆風にさらされている。