ケーブル局の誕生で
コンテンツ競争が発生

 もちろん、コンテンツの質が高くなければ人気も出ない。アメリカのNetflix内のランキングでも韓国ドラマがランクインすることは珍しくなくなった。

 日本のような下地がなくとも、欧米で注目を集めるのはその質の高さによるものだ。前田氏によると、韓国ドラマのレベル向上において、ケーブルテレビ局の隆盛は欠かせない要素だという。

「李明博政権時に、新聞社にも放送局の所有を認めるメディア改革が実行されました。その結果、JTBC、CHANNEL A、TV朝鮮、毎日放送の4つのケーブル局が誕生しました。ケーブル局ではありますが、地上波と変わらない総合的な編成をしており、地上波との遜色はありません。地上波以外のテレビ局やチャンネルが増えたことにより、コンテンツ制作に拍車がかかりました」

 韓国では全世帯の9割以上がケーブルテレビやインターネットテレビに加入しているという。前述「梨泰院クラブ」の制作はJTBCであり、「愛の不時着」も衛星放送事業者スカイライフのチャンネル「tvN」発だ。

「事業者が増えたことで競争が激しくなりました。当時の韓国の地上波では、番組途中でCMを挟むことはできませんでした。ケーブル局が有利だったのは、地上波とは放送法が異なるのでCMを途中に入れることができた。そこでどんどん広告が入り、資金力もついてきたんです」

 予算が増えるにつれて質の高いコンテンツも制作できるようになったわけである。さらに、コンテンツが増えていく中で優秀な人材も育っていると前田氏は予想する。

「韓国でのドラマは週2回の放送が多く、それだけでも仕事が2倍になる。また、チャンネルも増えたので制作の仕事も多くなり、クリエーターが経験を積めます。粗製乱造になりやすいですが、数を作れば質の高い作品は一定数生まれますから、その経験を生かして新たな作品を作るというサイクルになっていると思います」

 また、現場の増加で映画畑のスタッフや役者がドラマへ流入してきたことも、コンテンツのクオリティーと関係者のスキル向上につながっていったという。