累計38万部超のベストセラー『餃子屋と高級フレンチ』シリーズでおなじみの著者・林 總氏の最新刊『たった10日で決算書がプロ並みに読めるようになる! 会計の教室』が9月29日にダイヤモンド社から発売になります。本連載では、同書の中から抜粋して決算書を読み解くために必要な基本の知識をお伝えしていきます。登場人物は、林教授と生徒の川村カノンの2人。知識ゼロから始めて、いかにして決算書を読み解くスキルを身につけていくのか? 川村カノンになったつもりで、本連載にお付き合いください。
複式簿記に基づいた会計情報を
経営に巧みに活かしたコジモ・デ・メディチ
カノン その複式簿記が発明されたのは14世紀ですか。日本では、足利尊氏が室町幕府を開いたのが14世紀(1336年)だからずいぶん昔の話ですね。
林教授 たしかにそうだね。もう700年近くも前のことになる。その後、イタリアのフィレンツェでは土地の所有者や商人に対して、複式簿記による帳簿の作成が法律で義務付けられていたんだ。税金を取るためだったらしい。君はメディチ家を知っているかね。
カノン もちろんです。フィレンツェの大富豪で芸術家を育てた財閥です。
林教授 なかでも、最も知られている人物がコジモ・デ・メディチ(1389─1464)だ。彼は、父親から引き継いだ銀行事業を国際事業に発展させ、メディチ家をヨーロッパ最大の富豪に押し上げた。
カノン 私、肖像画を見たことがあります。
林教授 その彼が大成功を治めることができたのは、他でもない、複式簿記に基づいた会計情報を経営に巧みに活かしたからだ。会計を使うことで、メディチ家が有する全ての資産と負債を掴むことができた。そして、どの事業が儲かっていたかも掴んでいたんだ。
カノン そうなんですね。でも、世界史の授業で勉強しましたけど、確かメディチ家はコジモが亡くなってから衰退が始まりましたよね。
林教授 複式簿記による会計は、ピエロ(1416年─1469年)、ロレンツォ(1449年─1492年)に受け継がれた。だが、会計が経営の必須の情報であることの意識が薄らいでしまったんだ。
カノン 会計の価値が理解できなくなったのですか?
林教授 そうだね。会計は使用人の仕事と思ったのだろう。会計に関心を払わなくなったことで、ヨーロッパ全域に広がったメディチ家の経営実態が掴めなくなった。それが衰退の原因と言っていいだろう。
カノン そうですか。