レオナルド・ダ・ヴィンチに数学と複式簿記を教えた
ルカ・パチョーリ

林教授 100年あまりイタリアを中心に使われてきた複式簿記が世界に広がるきっかけとなったのは1494年だった。この年、数学者で修道士でもあったルカ・パチョーリ(1445年─1517年)によって『算術・幾何・比および比例全書(略してスンマ)』が出版されたんだ。

カノン その本はマニア向けだったんじゃありませんか? パチョーリなんて聞いたことないです。

パチョーリを侮ってはいけない。彼を尊敬し、教えを乞うた偉人は大勢いたんだ。その一人が、レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452年─1519年)だ。

ダヴィンチもゲーテも、<br />コジモ・デ・メディチも<br />会計を学んでいた!<br />

カノン あのモナ・リザを描いた天才画家ですか!?

ダヴィンチもゲーテも、<br />コジモ・デ・メディチも<br />会計を学んでいた!<br />林 總(はやし・あつむ)
公認会計士、税理士
明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授
LEC会計大学院 客員教授
1974年中央大学商学部会計学科卒。同年公認会計士二次試験合格。外資系会計事務所、大手監査法人を経て1987年独立。以後、30年以上にわたり、国内外200社以上の企業に対して、管理会計システムの設計導入コンサルティング等を実施。2006年、LEC会計大学院 教授。2015年明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授に就任。著書に、『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』『美容院と1000円カットでは、どちらが儲かるか?』『コハダは大トロより、なぜ儲かるのか?』『新版わかる! 管理会計』(以上、ダイヤモンド社)、『ドラッカーと会計の話をしよう』(KADOKAWA/中経出版)、『ドラッカーと生産性の話をしよう』(KADOKAWA)、『正しい家計管理』(WAVE出版)などがある。

林教授 彼は芸術にとどまらず、医学、建築、化学、天文学、軍事技術等にも卓越した万能の天才だった。パチョーリはレオナルド・ダ・ヴィンチに数学と複式簿記を教えた。「最後の晩餐」を描く時、透視図法と比例についてパチョーリから学んだと言われている。

カノン パチョーリがあの大天才に数学を教えたのですか。そんなに凄い人だったんですね。

林教授 逸話はこれだけではない。もう1つだけ教えておこう。君は18世紀に活躍したヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(1749年─1832年)を知っているね。

カノン ゲーテですよね。ドイツの誇る文豪です。こう見えても私、文学部卒ですから。

林教授 ゲーテは詩人、劇作家、小説家、自然科学者、政治家、法律家だった。知っていたかね。

カノン 初めて聞きました! 彼もまた万能の天才だったんですね。

林教授 君は頼りにならない学士だね。その天才が書いた『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』の中で、主人公にこんな事を言わせている。

 

 

「真の商人の精神ほど広い精神、広くなくてはならない精神を、ぼくはほかに知らないね。商売をやってゆくのに、広い視野をあたえてくれるのは、複式簿記による整理だ。<中略>複式簿記が商人にあたえてくれる利益は計り知れないほどだ。人間の精神が産んだ最高の発明の1つだね。立派な経営者は誰でも、経営に複式簿記を取り入れるべきなんだ。」

『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代(上)』
ゲーテ作 山崎章甫訳 第10章

林教授 万能の天才ゲーテが、主人公の言葉を借りて言っているんだよ。君は、どう感じたかな。

カノン ゲーテは複式簿記を使いこなしていたんでしょうね。

林教授 正確に言えば、ゲーテもコジモ・デ・メディチも複式簿記で作った決算書を経営に活用していたということだ。

カノン 複式簿記って、社長こそが学ばなくてはならないのですね。がんばらなくちゃ。

林教授 その意気だ。だが、こんなことで驚いてはいけない。室町時代に発明された複式簿記は700年たった令和の時代でも、ほぼ原型を保ったまま会社の情報システムの中核として使われ続けているのだ。

カノン そんなに長い間ですか。なんだかため息が出ちゃいます。