「なぜ、日本ではユニコーン企業がなかなか出ないのか?」――。
この疑問への1つの回答となるのが田所雅之氏の最新刊『起業大全』(7/30発売、ダイヤモンド社)だ。ユニコーンとは、単に時価総額が高い未上場スタートアップではなく、「産業を生み出し、明日の世界を想像する担い手」となる企業のことだ。スタートアップが成功してユニコーンになるためには、経営陣が全ての鍵を握っている。事業をさらに大きくするためには、「起業家」から「事業家」へと、自らを進化させる必要がある、というのが田所氏が本の中に込めたメッセージだ。本連載では、「起業家」から「事業家」へとレベルアップするために必要な視座や能力、スキルなどについて解説していく。

サブスクリプションがますます加速し、ありとあらゆる業界に広がっていったとき、企業と顧客との関係はどう変化するのか?Photo: Adobe Stock

PEST分析は、事業環境を分析する際のフレームワーク

 Future Market(未来の市場)について考える際には、PEST分析を行うことをおすすめする。

 PEST分析とは、政治(Politics)経済(Economy)社会(Society)技術(Technology)の頭文字をとったもので、事業環境を分析する際のフレームワークの一つである。それぞれについて簡単に説明しよう。

Politics(政治、規制、国際情勢)

 法改正や条例制定・変更など政治に関係した動向はどうなっているか? 例えば、特定の市場において規制が緩和されるような動きはないか?

 逆に、規制が厳しくなるようなリスクはないか? それらの変更により、マーケットにはどのような需要が生まれるのか?

 これらは市場のルールそのものを変える典型的な要素であり、イノベーション云々の以前にまず押さえることが欠かせない。法改正などに向けた動きは、ある程度リサーチすれば比較的簡単に把握できるし、少なくとも現時点で、自分たちの業界を取り巻く規制を知っておくことは大前提になる。

 逆説的であるが、「規制が強い業界」の方がチャンスが大きい。「規制が強い」ということは、ユーザーは「悪いユーザーエクスペリエンス」を強いられている場合が多い。それには、多くの書類を提出しなければならない、分かりにくいプロセス、規制対応などがある。

 そこを抜本的に改善するユーザーエクスペリエンスを提供することができれば、一気に市場を席巻できる糸口を掴める。

 例えば、クラウド人事労務ソフトを開発するSmartHRなどは、まさに、規制が強く、様々な書類が必要な人事労務業務に対して最適なユーザーエクスペリエンスを提供し、PMFを果たし、大型調達して急成長している。