膀胱はパンパンなのに
尿がぜんぜん出てこない
(あれ、おかしいな、ぜんぜん出てこないぞ)
深夜のトイレでユキオさん(仮名・58歳)はうろたえた。尿意をもよおして目が覚め、トイレに入って数分、普段ならチョロチョロながらも放尿し終わっているはずなのに一滴も出ていなかったのだ。下腹に力を入れてみるが何事も起こらない。まるで体が尿の出し方を忘れてしまったようだった。
だが、尿意はある。大好きな野球中継を見ながらビールをがぶ飲みしたからだ。連敗続きだった贔屓(ひいき)のチームが久々に勝利し、「よっしゃ」と1人で何度も乾杯した。尿が溜まってパンパンに張った下腹部を手で押さえ、オロオロするうちに、痛みで冷や汗が噴き出し、激しくドキドキしてきた。そういえば最近は昼間も頻尿で「もしや過活動膀胱」とも思っていた。出るのを我慢するので苦労していたのに、出そうとしても出ないとは――。
たまらず妻を起こし、救急車を呼んでもらう。妻の運転で救急病院まで連れて行ってもらう、あるいは近所のクリニックが開くのを待って駆け込むという選択肢もあったかもしれないが、5分10分ならまだしも、それ以上は耐えられそうもなかった。