あなたは最近、会議中に急に尿意を感じたり、夜中トイレに行く回数が増えたり、はたまたトイレの時間が長くなったりしていないだろうか。この症状を引き起こす大きな原因の1つこそ、男性であるかぎり避けられない宿命の疾患、前立腺肥大症だ。日本社会の高齢化の進展とともに、おそらく、今後さらに患者が増えていく病気の1つであろう。程度の差はあれ、長生きしていれば、ほとんどの男性が経験する。40代以上になると8割以上の男性が肥大し、約3割の男性が治療を必要と言われている前立腺肥大症について、東京慈恵会医科大学 泌尿器科学講座の頴川晋主任教授に話を聞いた。(聞き手/医療ジャーナリスト 渡邉芳裕)
近頃、トイレの時間は長くないか!
急に我慢できない尿意が起きていないか!
――「前立腺」とは、そもそもどのような役割を果たす器官ですか?
東京慈恵会医科大学 泌尿器科学講座主任教授 1957年東京都生まれ。東京慈恵会医科大学泌尿器科主任教授兼診療部長。岩手医科大学卒。米国ヒューストン・ベイラー医大留学、北里大学医学部泌尿器科助教授、米国・メモリアルスローンケタリング癌センター客員教授などを経て現職。日本泌尿器科学会常任理事・国際委員長、国際泌尿器科学会理事、アジア泌尿器科学会学術委員長などを務める。NHK Eテレ『きょうの健康』などメディアでも活躍中。
前立腺は、男性特有の生殖器官の一つで、精液の一部である前立腺液を分泌する働きがあります。前立腺の本来の役割について、はっきりしたことは分かっていないのですが、前立腺液といわれる精液の一部を作っています。精液には、前立腺液のほか、精嚢で分泌される精嚢液、精巣でつくられた精子などが混じりあっていますが、その約3割は前立腺で作られています。精液は、精子に栄養を与える、精子の運動能力を高めるという意味で重要です。前立腺には射精における尿道の複雑な収縮、括約筋(かつやくきん)とともに尿道を締めて尿漏れを防ぐなど、射精と排尿をコントロールする役割があります。
前立腺は、膀胱から尿道へ続く出口部分で、尿道を取り囲むように存在しています。このため、前立腺が肥大すると、尿道が圧迫され、尿道が塞がり、膀胱の筋肉自体が弱まり、尿を押し出す力が弱くなることによって、排尿障害を生じさせるのが前立腺肥大症です。
――「前立腺肥大症」の原因は?
諸説ありますが、はっきりした原因はわかっていません。しかし、加齢と男性ホルモン、遺伝子が何らかの影響を及ぼしていると言われています。前立腺肥大症が、年齢が高くなるにつれて発症する人が多くなっていくことから、加齢が関与していることは、確実と言えるでしょう。最近では、メタボリック症候群との関係も指摘されています。