キオクシアの上場は、米中対立という地政学リスクに直面しているキオクシアの上場は、米中対立という地政学リスクに直面している Photo:Kioxia

『週刊ダイヤモンド』10月17日号の第1特集は、「日本企業は逃げられない 超地政学」です。米中対立はもはや、「海の向こうの大げんか」ではありません。日本企業の経営に直にダメージを与えるようになっています。2つの超大国が引き起こす、超地政学時代のリスクをレポートしました。(週刊ダイヤモンド副編集長 杉本りうこ)

対中制裁でファーウェイとの
ビジネスが暗礁に乗り上げた

 東芝から独り立ちし、米投資ファンドのベインキャピタルを中心とした日米韓連合の傘下に入った半導体大手キオクシアホールディングス。IPO(新規株式上場)を10月6日と予定していたが、上場目前の9月28日に上場延期を発表した。

 プレスリリースには延期の理由について、「最近の株式市場の動向や新型コロナウイルス感染の再拡大への懸念」とあるが、真の理由が米国の対中制裁にあることは誰の目にも明らかだ。

 発表の約2週間前の9月15日、米商務省は中国ファーウェイ(華為技術)への輸出規制強化策を発動した。これを受け日本の株式市場でも、半導体関連の株価が下落。特にキオクシアにとってファーウェイは、年間数百億円を取り引きする大口顧客だ。それが制裁強化を受け、同社向けの出荷を停止せざるを得なくなった。

 2018年来、激化する一方の米中対立。その直接的な打撃がとうとう、大手日本企業の経営を直接的に左右するようになったのだ。

 米国の規制強化を受け、半導体セクターに対してもキオクシアの成長戦略に対しても、投資家の目が厳しく なったのは当然のことだ。上場したところで、公募割れが懸念された。計画した資金調達額を割り込めば、大口株主の投資ファンド、米ベインキャピタルなどが損をする。ここはいったん上場をリスケし、市場の地合いがよくなる頃に再度挑戦するのが得策――というのがベインとキオクシアの狙いだ。

 いったん上場を引っ込めた今、次なる問題は、「いつ地合いが良くなり、上場に再挑戦できるか」だ。複数の関係者から漏れ聞こえてきた再上場のタイミングは、意外に早い。約2か月後ズレさせた今年12月を目指しているようだ。

 なぜ12月なのか。そこには、上場を阻んだ「根本原因」の解消への一縷の期待が込められている。11月3日の米大統領選挙で、現職トランプ氏が敗れ、民主党のバイデン候補が政権を奪取する可能性に、ベインとキオクシアは賭けているのだ。