星野リゾート代表・星野佳路さんが目下、組織として見直しを進めているというブランディング上の課題と方向性とは? 新刊『ザ・ビジュアルMBA』発売を記念して、同書の監訳を務めていただいた星野さんに「経営理論はビジネス現場でどう役立つのか」を伺うZoomセミナーを開催しました。その内容をダイジェストでお伝えする2回目です!

星野佳路(ほしの・よしはる)
星野リゾート代表
1960年長野県軽井沢生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程を修了。帰国後、91年に先代の跡を継いで星野温泉旅館(現星野リゾート)代表に就任。以後、経営破綻したリゾートホテルや温泉旅館の再生に取り組みつつ、「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO(おも)」「BEB(ベブ)」などの施設を運営する“リゾートの革命児”。2003年には国土交通省の観光カリスマに選出された。

――現在、星野リゾートのブランディングを自己採点されると100点満点中、何点ぐらいですか?

2009年からマスターブランド戦略としてブランディングの変更を行って、そのときは100点満点だと思っていました。ところが、それ以降、星野リゾートが成長してきた結果、色々なタイプのサブブランドが立ち上がるなど、もとの想定と違うことが起こり始めています。ブランド認知力調査も毎年9月に行っていて、1年単位の変化をモニターしていますが、このままいくとまずいな、と思っている。下手すると100点が80点ぐらいだったのが、このままだと60点になっちゃうかもしれない、という危機感をもって、いま再び教科書を見直してブランディングを見直そうとしています。

ブランド理論といえば、1980年代に出たデービッド・A・アーカー教授の『ブランド・ポートフォリオ戦略』(阿久津聡訳、ダイヤモンド社)や、日本で体系化された理論を出されるのは珍しい田中洋先生の『ブランド戦略論』(有斐閣)といった教科書を使い、社内勉強会を開いています。星野リゾートのブランド・アーキテクチャーについて、マスターブランドの「星野リゾート」のほか、「星のや」「界(かい)」「リゾナーレ」……という位置づけでいいのか、しきりに議論してます。ブランディングは、社会や市場の変化、自分たちの商品の成長にあわせて微調整していかなければならない難しい分野であり、まさに私たちは過渡期だなと思っています。

『ブランド・ポートフォリオ戦略』デイビッド・A・アーカー著

特に近年、調査するほど「高級さ」が重視されてきている傾向があります。奇しくも星野リゾートはみずからを高級なブランドに位置づけていませんが、高級さがブランド力の中でパワーを持つという方向性を無視できないとすると、今後どうするか。

アーカーは、「ブランド」というのは認知率、知覚品質、ロイヤルティ、リピート率などで構成されると言いましたが、世の中の星野リゾートというブランドの知覚品質に対して、グループ内の都市観光ホテル「OMO(おも)」、20代向けにカジュアルな「BEB(ベブ)」あたりは外れているかもしれない。しかも、私たちが再生を担う施設の中にも高級でないところは多い。

『ブランド戦略論』田中洋著

グループ内で、世間の知覚品質とずれているものが4つぐらいあるところから、コロナ期を経て急速に増えていったときどうなるだろうか、というのが私たちがまさに議論しているところで、こんな1100人に聞いていただいいるイベントで話して大丈夫なのかというのはありますが(笑)、今の本当の悩みです。

――ターゲットを含めて、ブランドごとにその位置づけを見直されているということですね。

「ブランド拡張は、ブランドによってマイナスにはたらく」というのがアーカーが指摘している注意点です。「OMO」「BEB」が成長したときに、星野リゾートのブランドの毀損につながり、「星のや」「界」にマイナスに働くのではないかという懸念ですよね。それをどう整理するかが課題になってます。何か良いアイデアがある方はご連絡をいただければ。

こういうふうに課題があるときに私がやってきたのは、教科書に戻る、ということなんです。全部読む必要はなくて、自分の課題が書いてある箇所を熟読して、これだ!というやるべき戦略が見つかったときには、そのとおりやってみる。いいところをつまみ食いしない。そういうときに教科書を今でも使うようにしています。(次回記事へつづく。 留学時代や「組織論」について語られた1回目はこちら

<参加者からの質問と回答>

Q1 星野リゾートは、4代目の星野さんの次は5代目に引き継がれるのですか?

5代目につなぎますよ。私たちは上場する意味はあまりないので。どんなに会社を大きくしても上場しないから、現金は入ってこない。バトン、あるいは、たすきを渡す駅伝みたいなものです。棄権しない、つぶさない、ということが私たちにとっては大事です。つらいときは、遅くてもいいから完走する。つなぐことさえできれば、たすきをもらった次世代がすごい勢いで走り出すことがあるかもしれない。たすきをつなぐのが大事だと思っています。

Q2 再生される施設に入るとき、そこが再生できるか否かの投資判断、その基準や範囲を教えてください。

私たちは施設の資産を所有せず、運営だけを担当する会社ですから、資産への投資はありません。投資をして所有するオーナーや投資家からお預かりして運営する、という形です。投資家やオーナーとは、こういう戦略なら収益性はこのぐらい改善するといった議論をします。

私が大事にしているのは、どういう改善をすると何年ぐらいでどのぐらいの売上になるか、集客レベルに応じた収益性の変化や、その収益に対して設備投資とのバランスをどう見るか、といった点です。ベストの戦略を示して納得していただけるかどうかで、私たちが仕事を得られるかどうか決まるというプロセスになっています。