日置 業績が振るわない企業ほど業績重視で選んでしまいがちです。本当はそういうときだからこそ目先の数字を置いてでも、将来を見据えてリーダーにふさわしい人材を選抜して育てなければならないのに、その我慢ができない。経営トップの胆力が試されるところです。

昆 3Mでは評価のど真ん中には常にイノベーションがあってビジョン、ミッション、バリューで示されています。つまり、イノベーションを追求する姿勢と成果をもって上も下も評価する。これは良いときもそうでないときも、誰がトップになってもずっと変わりません。

日置 ビジョン、ミッション、バリューをそのまま評価にも使うというのはわかりやすいし、評価される側にとっても納得感があります。また、姿勢と成果もポイントですね。日本企業の人事部はもっぱら制度を作るのに忙しいようです。昔の人事部は「閻魔帳」みたいなものを持っていて、これはという人を引っ張り上げていました。公平性や透明性はともかく、生身の人間を見ていたのは確かでしょう(これが、前回の質問の答えです)。

世界標準の人事を知る

日置 主に人事について話してきましたが、経理や法務も同じような課題を抱えています。いわゆる「コーポレートスタッフ」ですが、日本企業とワールドクラスでは果たしている役割が違っていて、企業価値向上への貢献という点で比較になりません。昆さんとは、コーポレート部門を強化しない限り日本企業は世界で戦えないという危機意識を共有して、事あるごとに発信してきましたが、まだまだ浸透が足りないようです。

昆 そうですね。3Mが絶えずイノベーションを起こして、全世界で約5万5000種類を超す製品を提供できているのも、単に技術力が高いからではありません。会社の大きな方向性を示すビジョン、ミッション、バリューに基づく戦略があり、それをともに実現していくコーポレート部門があるからです。優れた技術、強いビジネスを持ちながら、世界で戦えない日本企業があるとすれば、実にもったいない話です。

 3Mにしても他のワールドクラスにしても、最初からいまの形だったわけではありません。グローバル化の進捗に合わせて、マネジメント全般にわたり試行錯誤を重ねて現在に至ります。

日置 欧州系や米系、産業による違いはあるとはいえ、そこには共通の型のようなものが見られますね。人事であれば昆さんが言われたように、企業文化を浸透させ、それを土壌として、人と組織の成長に貢献することです。国や地域、あるいは事業部門の壁はなく、あくまでもグローバル全体で最適を追求することを目指します。
 まずは、この現時点における世界標準を知ることから始めなければ、前には進めないということです。

 ワールドクラスのファンクションについて、第3回は財務(ファイナンス)、今回は人事(HR)を取り上げました。次回は法務(リーガル)を取り上げます。

 では、次回のテーマである法務が果たすべき役目は何でしょう?

 その答えは、第5回で説明します。(続)