最終的な目標は
JR西日本経済圏の確立

 利用者を「個」で追える時代の経営の基軸として期待を込めているのが、今年9月にリリースしたスマホアプリ「WESTER」と、2023年度にサービス開始を予定している「モバイルICOCA」だ。

 ユーザーがサービスに触れるタッチポイントとしてWESTERを位置づけ、モバイルICOCAを決済手段として活用する。最終的には、サードパーティーを巻き込んでJR西日本経済圏を確立することが目標だ。

 その前哨戦として行っているのが、WESPOを利用した商業店舗のスタンプラリーである。スタンプラリーといってもただの販促キャンペーンではない。利用者の属性情報や過去の利用状況からAIが自動生成した最適なテナントがアプリ上にレコメンド(推薦)され、達成すればポイントが付与される仕組みだ。今年度は既に3回実施し、キャンペーン参加者の平均購買単価が終了後も持続するという効果が出ているという。

 今後、これらのデータを活用した取り組みを深度、範囲ともに広げていく上で欠かせないのが事業部門との信頼関係だ。「デジタルソリューション本部と一緒に仕事をしたら自分たちも幸せになると思ってもらい、仲間にしていかないといけない」と宮崎氏は語る。

 手応えは十分にあるようだ。課題を言語化しやすいエンジニアリング部門の仕事に対して、マーケティングの課題は目的や仮説の設定からして不確かさが付きまとう。

 しかし、「今まではテクノロジーの制約や情報格差によって、経験ある人が演繹法的に仮説を生み出していたが、データの世界では全件全粒度の分析によって帰納法的に仮説を生み出すことができるようになった」として、データから導き出される「確率的に正しい仮説」を矢継ぎ早に検証していくことで、各部門からの信頼を得るとともに、グループ全体を動かすだけの説得力を高めていこうという考えだ。

 とはいえ、JR西日本のデジタル戦略は背伸びをしない。例えば、前述のCBMについても、専用の高価な軌道モニタリング装置を導入するのではなく、安全部門が脱線検知のために設置した車両挙動監視装置の加速度データから、軌道の変状を検知するシステムを構築したという。

 宮崎氏はこれを自嘲気味に「貧者のCBM」と呼ぶが、データ収集そのものを目的とするのではなく、データを活用して何を実現するかという目的意識が明確だからこそ実現できた事例と言えるだろう。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれる昨今、鉄道業界ならずともJR西日本の取り組みに学ぶべき点は多そうだ。