生物とは何か、生物のシンギュラリティ、動く植物、大きな欠点のある人類の歩き方、遺伝のしくみ、がんは進化する、一気飲みしてはいけない、花粉症はなぜ起きる、iPS細胞とは何か…。分子古生物学者である著者が、身近な話題も盛り込んだ講義スタイルで、生物学の最新の知見を親切に、ユーモアたっぷりに、ロマンティックに語る『若い読者に贈る美しい生物学講義』が発刊。9刷、5万部突破のベストセラーになっている。
出口治明氏「ドーキンス『進化とは何か」以来の極上の入門書。」、養老孟司氏「面白くてためになる。生物学に興味がある人はまず本書を読んだほうがいいと思います。」、竹内薫氏「めっちゃ面白い! こんな本を高校生の頃に読みたかった!!」、山口周氏「変化の時代、“生き残りの秘訣”は生物から学びましょう。」、佐藤優氏「人間について深く知るための必読書。」、ヤンデル先生(@Dr_yandel)「『若い読者に贈る美しい生物学講義』は読む前と読んだあとでぜんぜん印象が違う。印象は「子ども電話相談室が好きな大人が読む本」。科学の子から大人になった人向け! 相談員がどんどん突っ走っていく感じがほほえましい。『こわいもの知らずの病理学講義』が好きな人にもおすすめ。」、長谷川眞理子氏「高校までの生物の授業がつまらなかった大人たちも、今、つまらないと思っている生徒たちも、本書を読めば生命の美しさに感動し、もっと知りたいと思うと、私は確信する。」(朝日新聞2020/2/15 書評より)と各氏から絶賛されている。
2020年のノーベル化学賞は、ゲノム編集技術の基礎研究を行った2人の研究者に贈られた。話題のゲノム編集手法「クリスパー・キャス9」はどこが優れているのか、著者が緊急寄稿した。累計50万PV(ページビュー)を突破した大好評連載のバックナンバーはこちらから。

Photo: Adobe Stock

2020年のノーベル化学賞

 今年(2020年)のノーベル化学賞は、クリスパー・キャス9(ナイン)というゲノム編集技術の基礎研究を行ったアメリカのカリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ博士とドイツのマックス・プランク感染生物学研究所のエマニュエル・シャルパンティエ博士に贈られた。ゲノム編集とは、生物の遺伝情報を自由に書き換える技術である。

 ゲノム編集がこれまでの遺伝子操作と大きく違う点は、その精度である。生物のDNAのある決まったところに、別の短いDNAを挿入しようとした場合、これまでの遺伝子操作における成功率は、100万分の1とか1万分の1とか、その程度にすぎなかった。

 しかし、ゲノム編集技術では、100パーセントとまではいかないものの、それに近い確率で、DNAの決まった部分に別のDNAを挿入することができる。しかし、成功する確率が低いだけなら、その分たくさん実験をすればよいだけに思える。ゲノム編集というものは、たんに今までの遺伝子操作より効率がよいだけなのだろうか。

このゲームにあなたは参加しますか?

 仮に、こんなゲームを考えてみよう。広い部屋の中に、ピストルがたくさん置いてある。ピストルは全部で1万丁ある。その中の9999丁には弾が入っているが、1丁だけは弾が入っていない。そして、あなたは、どのピストルに弾が入っていないかは知らない。

 もしゲームに参加すれば、あなたはピストルを1丁選んで、それを額に当てて、引き金を引かなければいけない。もしも弾が出なければ、あなたは1億円がもらえる。しかし、弾が出れば……もちろんあなたは死ぬことになる。さて、あなたはゲームに参加するだろうか。

 こんな危ないゲームに参加する人はいないだろう。だって、まず間違いなく死んでしまうからだ。しかし、逆の場合はどうだろう。弾が入っているのは1丁だけで、9999丁には弾が入っていなかったとしたら……その場合は、参加する人も結構いるのではないだろうか。死ぬ危険もゼロではないけれど、不慮の事故とかで命を落とす確率よりは低そうだし……。

 さて、これまでの遺伝子操作は、最初のゲームみたいなものだった。仮に、あなたが遺伝性疾患を持つ受精卵だったら……DNAを改変すればその疾患が治ることがわかっていたとしても……こんな危ないゲームに参加したくはないだろう。いっぽうゲノム編集は、後のゲームのようなものだ。これなら参加する受精卵もいるのではないだろうか。

 このように、成功する確率の低い技術には手を出せなかった分野にも、ゲノム編集なら手を出すことが可能である。今までは人類は、地球上のゲノムのほんの一部しか改変することができなかった。しかし、ゲノム編集によって、ほぼすべてのゲノムを改変することができるようになったのである。ただし使いようによっては、悪魔の技術になる可能性も秘めてはいるけれど。