「なぜ、日本ではユニコーン企業がなかなか出ないのか?」――。
この疑問への1つの回答となるのが田所雅之氏の最新刊『起業大全』(7/30発売、ダイヤモンド社)だ。ユニコーンとは、単に時価総額が高い未上場スタートアップではなく、「産業を生み出し、明日の世界を想像する担い手」となる企業のことだ。スタートアップが成功してユニコーンになるためには、経営陣が全ての鍵を握っている。事業をさらに大きくするためには、「起業家」から「事業家」へと、自らを進化させる必要がある、というのが田所氏が本の中に込めたメッセージだ。本連載では、「起業家」から「事業家」へとレベルアップするために必要な視座や能力、スキルなどについて解説していく。

持続的競合優位性としてのテクノロジーの秀逸性とイノベーションモデルとは?Photo: Adobe Stock

自社保有のテクノロジーの秀逸さは、どの程度か?

 自社がどのようなテクノロジーを保有しているのか、その秀逸性は、大きな競合優位性資産になる。特に、ディープテック系と呼ばれるような、長年の研究開発をベースにプロダクトを構築してきたスタートアップなどは、これに当たる。

 例えば、石灰石を主原料とし、原料に水や木材パルプを使用せず紙の代替や石油由来原料の使用量を抑えてプラスチック代替となる新素材「LIMEX(ライメックス)」を開発・製造・販売する株式会社TBMなどが挙げられる。

 他にも「大型リチウムイオン電池セル」を国内自社工場で生産しているエリーパワー(正極材には安全性に優れた「リン酸鉄リチウム」を採用。大型リチウムイオン電池として、世界で初めて国際的認証機関TÜV Rheinland[テュフ ラインランド]の製品安全検査に合格)などを事例として挙げることができる。

 上記のような優れた技術を誇るスタートアップには、高い時価総額がつく。しかし、重要なのが、テクノロジーをどのように実践に応用してマネタイズしていくかだ。毎年、巨額な資金調達をしても、PMFできずに潰れてしまうスタートアップが後をたたない。

 特にハードウェア系のスタートアップは、フェーズが変わると、必要となるスキルセットが変わってくる(最初はプロトタイプを作ったり、研究が得意な人が必要だが、次のフェーズになると量産が得意な人が必要になる)。

 自社のプロダクトライフサイクルベースのロードマップを作り、マイルストーンごとに必要な人材要件を明らかにしていく必要がある。それに加えてテクノロジーがあまりにも、専門的になりすぎると「情報の非対称性」が甚だしくなり、実際に、プロジェクトや開発が進捗しているのかどうかの透明性がなくなり、ガバナンスが利かなくなるリスクにも留意すべきだ。

 私自身もこれまで、数多くのディープテック系のスタートアップの評価やアドバイスを行ってきた。創業者や創業メンバーは、その領域で、ともすれば、何十年も研究を続けてきた専門家の場合が多い。技術力を買われて、資金調達や助成金を受けることはできるものの、その後スケールできないケースも多く見てきた。その原因の多くが、技術の優位性にこだわるあまりに、マーケットとのキャッチボールや、マーケティング活動などを疎かにしてしまったためだった。