誰もまだ気づいていない独自の価値提案を見つける

持続的競合優位性としての<br />テクノロジーの秀逸性と<br />イノベーションモデルとは?田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役社長
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動する。日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。日本とシリコンバレーのスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めながら、ウェブマーケティング会社ベーシックのCSOも務める。2017年、スタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。著書に『起業の科学』(日経BP)、『御社の新規 事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『起業大全』(ダイヤモンド社)がある。

(6)戦略的自由度
 既存の枠から敢えて外れることで、今までにない価値提案が可能になるアイデア。いわゆるブルーオーシャンのことだ。例えば、メッセージアプリは、各社それぞれの特徴(スタンプ利用、実名利用)はあれど、一度送ったメッセージは永続的に残る前提で、サービスの設計がなされていた。そこにメッセージが送られて、開いたらすぐに消えてしまうというスナップチャットというメッセージアプリが出てきた。既存のメッセージアプリ疲れをしていたアメリカのティーンエイジャーに“メッセージを開けたときのサプライズ”と“時間が経つと消えるのでもっと自由にコミュニケーションできる”という価値提案をした(スナップチャットは若い層に圧倒的な支持を得てシェアを伸ばし、2017年に上場を果たす)。

 これまでの戦略や価値提案の枠組みを無視して、自由な発想で価値提案を行う思考の型である。誰もまだ気づいていない(顧客すら気づいていない、言語化できていない)独自の価値提案を見つける。その価値提案を具現化したプロダクトとUXを磨き込みながら顧客をハマらせていくことで、市場に浸透させていくアイデアである。

(7)タイムマシン
 別の市場ですでに検証済みのモデルやプロダクトを他の市場に持ち込むことだ。私は2015年から東南アジアの投資担当をしていて現地のスタートアップと頻繁にコミュニケーションをとっている。インドネシアのある起業家が「We don’t invent wheels(私たちが車輪を発明することはない)」と言っていたことが印象的だ。すでに他の国で検証されたビジネスモデル(車輪)は海外から持ってくればいいと考えているのである。

(8)アービトラージ
 需要に対して供給が不足している市場に対して、供給過多になっている市場からリソースを持ってくるアイデア。例えば、フィリピンは英語が第二外国語のため流暢に話せる人がたくさんいるが、フィリピンの地元では供給過多で英会話教師の仕事を見つけるのは容易ではない。一方、日本だと英会話に対する需要が高いが、在日のネイティブスピーカーの講師の数は限られているために、レッスン料は割高だった。レアジョブはフィリピンの英会話の先生と日本の生徒をマッチングさせる仕組みを提供することで需要と供給のギャップを埋めた。

(9)ローエンド破壊
 既存製品の性能が過剰に高まり、多くの顧客が求める水準を超えてしまっている状況で、過剰な部分をそぎ落とし安価な製品を提供する戦略のこと。少量のお湯を短時間で沸かせるティファールの電気ケトルによる破壊的イノベーションがこれに当たる。

 面白い例を挙げると、たった500円の料金で健康診断が受けられるケアプロというサービスがある。人間ドックを受けるとなると通常、数万円かかるし、最低でも半日を要する。会社負担ならまだしも自営業だとその負担は大きい。そこでケアプロはプロセスを簡易化することで一気にコストを下げた。検査項目は健康の指標となる重要な9項目(血糖値、肝機能、血管年齢など)で、かかる時間はわずか3分だ。

(10)As a service化
 プロダクトをワンショットで売り切るのではなく、As a service化/サブスクリプション化するというのも一つの有効なフレームワークだ。日本でも近年、流行っているが、特にシリコンバレーではB2C/B2B問わずあらゆるものがサービス化されている(アメリカではバックオフィスのサービスの8割がAs a service化されたソリューションに置き換わっている)。