ハーバード大学経営大学院(以下、ハーバード)で長年注目されている企業の一つが、トヨタ自動車だ。世界が注目するトヨタの強みというと、「トヨタ生産方式」が頭に浮かぶかもしれないが、近年ハーバードの教授が注目しているのはそうしたオペレーションの分野に限らないのだという。『ハーバードの「トヨタの授業」を毎年900人のエリートが必ず受ける理由』に続き、『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)を上梓した佐藤智恵氏が、ハーバードでトヨタ自動車の経営が注目される理由を解説する。

ハーバードの教授陣も注目する
トヨタの「心理的安全性」

ハーバードがトヨタの「両利きの経営」に日本企業の希望を見出したワケ「心理的安全性」研究の本家もトヨタの企業文化に注目している Photo:Smith Collection/Gado/Getty Images

 トヨタの事例は、前回紹介したようなオペレーションだけではなく、イノベーションやリーダーシップを専門に研究する教授陣からも注目されています。2019年度の「世界最高の経営思想家ランキング」(Thinkers50)で第3位に輝いたエイミー・エドモンドソン教授もその一人です。

 エドモンドソン教授は、「チームにおける心理的安全性と生産性の関係」を実証したことで世界的に有名な教授で、その研究はグーグルやマイクロソフトなど大手企業のマネジメントに大きな影響を与えています。

 エドモンドソン教授が実証したことを要約すると、「上司にも部下にも思ったことを忌憚なく言える雰囲気があるチームの生産性は高い」「恐怖が支配し、忖度がはびこるような職場の生産性は著しく低い」ということ。何となくそうだろうなと思うことをさまざまな実験とデータを基に科学的に証明したのが、エドモンドソン教授なのです。

 読者の皆さんの会社の中にも、「とても雰囲気が良いチーム」「メンバーがやる気にあふれているチーム」もあれば、「チームメンバーがビクビクしているチーム」「言われたことしかやらない官僚主義チーム」もあるでしょう。その違いの要因はチームの「心理的安全性」なのです。後者のグループが主流になってくると会社はどんどん傾いていくと言われています。

 この心理的安全性を最も熱心に研究し、実践しようとしているのがグーグルとマイクロソフトです。いまや大企業となった両社が最も恐れているのが、大企業病にかかることです。グーグルもマイクロソフトもチームの生産性についての研究結果を公式サイトで公表していますが、「心理的安全性」がチームの生産性にとって最も重要な要因の一つであるとしている点は共通しています。