トヨタ自動車やソニーなど、日本企業が起こした戦後のイノベーションは世界から注目されてきた。しかし一方で、90年代以降は日本企業から画期的なイノベーションが生まれるケースは少なくなっている印象がある。そうした中で、ハーバード大学経営大学院(以下、ハーバード)から高く評価されたのが、「ホンダジェット」の事例である。『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)を上梓した佐藤智恵氏が、その背景を解説する。
日本企業が陥った
「イノベーションのジレンマ」
日本企業のイノベーションについては、今もハーバードのさまざまな授業で教えられていますが、事例としてよく出てくるのは、戦後のイノベーションです。特にソニーのトランジスタラジオ、ホンダのスーパーカブ、トヨタ自動車の小型車などは、アメリカ市場を席巻した「破壊的イノベーション」と呼ばれ、高く評価されています。
一方、1990年代以降は、日本からそれほど革新的なイノベーションは生まれていないというのが一般的な認識です。ハーバードで注目されたのは任天堂のWiiぐらいではないでしょうか。GAFAやITベンチャー企業が台頭する中で、多くの日本企業は「イノベーション(イノベーター)のジレンマ」に陥っているとみなされ、イノベーションの授業で取り上げられることも少なくなってきました。
日本企業が抱える最大の課題の一つが、このジレンマから脱却することだと言われています。
「ホンダジェット」が
ハーバードで注目された理由
日本企業から近年破壊的イノベーションが生まれていないとはいえ、ハーバードの教授陣の間では「日本企業は何かやってくれそうだ」という期待感があるのも事実です。なぜなら、トランジスタラジオもスーパーカブも突如としてアメリカに現れ、予想もできない方法で成功したからです。ですから、継続的に日本の大企業を研究している教授も多数います。
その中でもホンダは長らくスーパーカブの事例が教えられてきたこともあり、ハーバードの教授陣が特に注目してきた企業です。アメリカに行くとホンダのブランド力の高さに驚くことがありますが、それもこれもアメリカ中をスーパーカブが走っていた時代があったからだと思います。ハーバードでインタビューしていても、「そういえば最近、ホンダは何か面白いことやっていないか」と聞かれることもしばしばでした。
そうした中で「日本企業らしい革新的な製品」として注目されることになったのが、ホンダジェットでした。