生かせなかった
浅利慶太の言葉

 そんな浅利さんから厳しく叱られたことがあります。

 ちょうど、綿矢りささんと金原ひとみさんの19歳、20歳のコンビが、芥川賞を受賞して大いに沸いていたときのことです。浅利さんは私にこう言ったのです。

「君たちは、この大成功で会社の家計簿を埋めたと思って喜んでいるんじゃないのか? これは若い人が純文学に参入してくる大チャンス。文学界を閉めて新しい文学雑誌をつくるとか、そういった冒険をしないと出版界はダメになります。

 かつて私が劇団四季をつくったとき、それこそ四季は吹けば飛ぶような会社で、文芸春秋を代表とする出版社は仰ぎ見るような存在でした。冒険をしないと新しい読者、新しい消費者は生まれない。ただのフランス文学崩れの私たちは、常に全部を捨てて前に進みました。チケットピアで、全国で簡単に切符を買えるようにしたのも四季が最初。リーダーである文芸春秋が冒険しないと、業界全体がダメになります」

 心に沁みる忠告でしたが、その言葉を生かせなかったのは私の非力です。

 浅利慶太さんの「企業トップのわが決断」は、担当編集者にとっては驚きの連続でした。 普通対談といえば、編集者は対談相手についての記事などの資料を集め、質問ポイントをつくって対談のホストにお届けます。しかし浅利さんからは、対談の前に取材の指示がきました。事前にその経営者のことを一番知っていると思われる人を浅利さんが調べておき、私が取材して、エピソードを仕込んでインタビューする仕掛けです。