台湾がこの製造ライン政策に使った予算は単純計算で約10億円。かたや、日本が布マスクの購入、検品、梱包、配送に使った予算は260億円以上。どちらが有効に国民の税金を使ったかは明らかではないだろうか。

 先述の通り、台湾では、マイナンバーカードのようなICチップ入り保険証「全民健保ICカード」を使用したマスクの実名販売制を2月から実行した。これは、保険証での購入履歴がオンラインネットワークで衛生福利部(厚生省に相当)中央健康保険署に集約され、二重購入や販売ミスが防げる仕組みだ。この「全民健康保険ネットワークシステム」は、国民と全国の病院そして健保特約薬局をつなぎ、国民の健康を守っている。

 台湾は1995年に複数あった保険制度を統合して「全民健康保険制度」を導入した。2001年から「全民健康保険ネットワークシステム」を構築し、今回活躍した医療デジタルネットワークを完成させた。また、2004年には、「全民健康保険証カード(保険証)」をICチップ入りに変更し、現在では国民全員(99%以上)がこの「ICカード」を保有している。

 こうした取り組みが基盤にあったからこそ、オードリー・タン政務委員が必要な行政機関との調整を図り、ネットワークデータの一部をオープンソースとして、民間企業に活用させ「マスクマップ」を開発させることができたのである。

迅速なコロナ対応を
可能にした医療インフラ

「全民健保ICカード」には、患者の診察、検査、治療、投薬などの医療情報が記録され、ネットワークで中央健康保険署のサーバーで収集・管理されている。同時に、診察検診、血液検査、検査画像、入退院情報などの電子カルテも統一され、医療機関での共通化が図られている。

 また、患者の同意があれば、診断する医師は半年間の診察記録や投薬記録を確認することが出来るので、無駄な検査が不要で、短時間で適切な診察が受けられる。これにより全国で均一な医療サービスを受けられるようになるため、国民の9割程度が医療情報の公開に賛同している。なお、患者の医療情報は、診察する医師が保有する医師専用のICカードがないと閲覧できないようにプロテクトされている。

 この「全民健康保険ネットワークシステム」は、ほかにも多くの良い副産物を生んでいる。医療情報の共有は、医療機関による過度な検査や薬剤処方の重複を避けることが出来るので、医療費の大幅な削減効果も生んでいる。さらには、日本で問題になっているような、患者が自分の疾患を利用して処方薬を大量に仕入れて転売する悪用も防いでいる。