「知的シャドーボクシング」「1人ボケツッコミ」から
ユニークかつ筋のよい戦略ができる
土屋:次に何をやろうというアイデアは次々浮かぶのですが、本当に正しいかどうか絶えず疑い、自問自答しています。
御立:出てきたアイデアがすべて筋のよいものであるはずはないから、なんらかの形で検証して、筋の悪いものをはじくことが重要です。
生き残ったアイデアも、ああでもないこうでもないと、複数の鏡でチェックし、質の高いものに進化させていかなくてはなりません。
土屋:おっしゃるとおりです。
御立:1人で複数の視点をもちながら思考するのは、ビジネスで面白いものを考えるのにとても大事です。私はそれを「知的シャドーボクシング」とか「1人ボケツッコミ」と呼んでいますか。
土屋:シャドーボクシングは、ボクサーが仮想敵を想定しながら、パンチを避け、こちらからもパンチを繰り出していくものですね。
御立:アイデアが浮かんだら、批判的な視点であらゆる方向から攻撃します。そして、受けるときは攻撃をしのぎながら、アイデアの質を高め、攻めに出ます。仮説・検証に必要なら、現場に出てデータを集めます。こういった作業をどんどん繰り返すことが、知的シャドウボクシングです。
土屋:今おっしゃった仮説・検証はまさにやっています。
都心に出店するかどうかいろいろ考えたことがあります。ただ、都心の地価が高いところには出店できない。でも、山手線内に店舗ができてお客様に来店してもらえるようになれば一切の宅配をやめられるとも考えました。
実際、「都心に店を出すとき、駐車場は何台分あるといいか」と考え、首都圏の複数店舗で駐車場を調査したこともあります。その結果、作業員の滞在時間は平均5分程度、現場に向かう朝の時間帯は平均3分程度でした。年間2億円を売り上げるには駐車場は6台分でいいとわかりました。
御立:自分のアイデアを批判的かつ肯定的に捉えたり、現場で観察したりするのはまさに知的シャドーボクシングですね。私はこの思考のクセをもっている人が、ユニークかつ筋のよい戦略を立てると思っています。
土屋:「足し算」型のジャングルファイターでありながら、引き算型の「しない経営」を学んだのもよかったのかもしれません。
御立:ある種、二重人格的に考えているのですね。ボストンコンサルティンググループ(BCG)で後輩の指導に当たっていたとき、「インサイト」という勝てる戦略を立てるのに必要な「頭の使い方」を簡単に身につけてしまう人と、ものすごく苦労する人がいました。
土屋:とても興味あります。
御立:インサイトをどんどん身につけてしまう人は、物事を考えるときに自分の中でまったく逆の立場に立ってみることが、ごく自然に実行にできるのです。
たとえば、「コロナ禍で飲食店の売上が激減している」というマクロ的な見方をしながら、実際にハンバーガーショップに出かけ、「どんなタイプのお客さんがどんなハンバーガーをどのくらい買っているか」というミクロ的視点で観察するという具合です。
二重人格的に考え、自然と知的シャドーボクシングができる人は、インサイトを身につけるのが早かったのですが、土屋さんもこのような頭の使い方をされているのではないかと思います。