「多様性からの連帯」を実現する
「自分は50%間違える」
土屋:もう1つ、頭の中にモヤモヤと浮かんできたことを口にすると、社員が直してくれます。じつは、WORKMAN Plus1号店は本気で銀座に出店しようと考え、公言していました。すると社員から異論が噴出しました。
「銀座でウインドウショッピングというが、実際に消費行動を見ると、誰もウインドウなんか見てやしない」
「購入する商品がすでに決まっている人か、友達とお茶をする人しかいない」
「あんなところに出したら、売上の5割を家賃にとられる」
などと袋叩きに合いました(笑)。おかげで論点が整理され、出店候補地を絞り込んでいくことができたのです。
御立:知的シャドーボクシングだけじゃなく、他者とも試しているのですね。
土屋:日々スパーリングですね。ボコボコにされることが多いのですが(笑)。
御立:スパーリングパートナーはどんな方ですか。
土屋:マネジャー、部長クラスの社員です。新しいアイデアが浮かんだら社員10人くらいに電話で相談します。5分、10分話すといろんなアイデアをもらえます。
彼らはかなり力量があるので話していて楽しい。「私はこう考えるけど、どう思うか」と尋ねると、だいたい否定的なことを言われます。こうした社員の意見や反論を踏まえて軌道修正を行います。
御立:なぜ社員のみなさんは土屋さんに対して、きちんと否定的な意見を言えるのでしょうか。忖度されない役員になりたい読者は多いのでは(笑)。
土屋:私は「自分は50%間違える」と公言しています。
何か意見を出せば2つに1つは間違っているのです。実際、「作業服」という言葉を「ダサい」と思って、公式ホームページの「作業服」という表記をすべて「ワークウェア」に変えてしまい、かえって評判を落とすという大失敗をしました。
WORKMAN Plusを出店するとき、「WM+」にしようと思ったり、出店場所を間違ったりもしました。なんとも頼りない話ですが、それだけこれまでの勘と経験が通用しない時代に入っているのだと自覚するようにしています。
御立:ただ、若い社員からの痛烈な批判を受けて、正直頭にくることもあるのでは?(笑)
土屋:あります(笑)。でも、そこで怒ったら会社が間違った方向に進んでしまいます。
そこで「私は変える能力が高い」と思うようにしています。建設的な意見を言ってくれるのはありがたいことで、失敗を未然に防ぎ、さらにいいアクションにつながっていきます。
御立:BCGの東京事務所には「多様性からの連帯」という「書」が掲げられています。
「優秀な人材を集めても、同質集団では戦略立案に必要なアイデアのぶつかりあいに欠ける。戦略のエキスパートであり続けるためには、異質の人材を集め、彼らを組み合わせてチームにすることが不可欠だ」という思想をDNAとして持ち続けていこうという表れなのですが、土屋さんの「『自分は50%間違える』を公言する」には同じ精神を感じます。
土屋:優秀かつ多様な人材とスパーリングを重ねることがよい戦略を立案する方法だとしたら、そこには作法が必要だということでしょうか。
御立:まさにそのとおりだと思います。
御立尚資(みたち・たかし)
ボストン コンサルティング グループ シニア・アドバイザー
京都大学文学部米文学科卒。ハーバード大学より経営学修士(MBA with High Distinction, Baker Scholar)を取得。日本航空株式会社を経て、1993年BCG入社。2005年から2015年まで日本代表、2006年から2013年までBCGグローバル経営会議メンバーを務める。BCGでの現職の他、楽天株式会社、DMG森精機株式会社、東京海上ホールディングス株式会社、ユニ・チャーム株式会社などでの社外取締役、ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン専務理事、大原美術館理事、京都大学経営管理大学院にて特別教授なども務めている。経済同友会副代表幹事(2013-2016)。著書に、『戦略「脳」を鍛える~BCG流戦略発想の技術』(東洋経済新報社)、『経営思考の「補助線」』『変化の時代、変わる力』(以上、日本経済新聞出版社)、『ビジネスゲームセオリー:経営戦略をゲーム理論で考える』(共著、日本評論社)、『ジオエコノミクスの世紀 Gゼロ後の日本が生き残る道』(共著、日本経済新聞出版社)、『「ミライの兆し」の見つけ方』(日経BP)などがある。
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。