知らない人が知らない製品を
紹介しても誰も買わない

内田:別のパーツも見ていきましょう。

「ジャパネットたかた」が取り扱う製品は、当初はナショナルブランドすなわちNBと呼ばれる有名メーカーの商品ばかりでした。

なぜかといえば、今でこそ「ジャパネットたかた」は有名ですが、当時はまだ知られていなかった。そんな状態で、聞いたことのないメーカーの製品を扱ったらお客さんが信じてくれません。知らない人が、知らない製品を紹介しても誰も買わないでしょう。

土屋:そうですよね。紹介営業は信頼性が大事です。私たちもアンバサダーに製品の紹介をお願いしているので、よくわかります。

内田:ですからナショナルブランドを扱えるかが非常に大切になります。

製品に一定の信頼性があると、高田さんのわかりやすいトークによって差別化を図ることができる。「ジャパネットたかた」の顧客ターゲットは「お茶の間でテレビを見ている製品知識があまりない人」です。商品情報カタログや情報誌を読んでから家電量販店に行くような人ではありません。

土屋:家電についての知識がほぼゼロの人をターゲットに、高田さんの語りかける口調で説明すると手法が生きてきますね。

内田:次に仕入れの問題があります。テレビショッピングには広告宣伝費がかかりますから、安く仕入れなくてはなりません。当時はあまり知られていない「ジャパネットたかた」が商品を安く仕入れるためには、アイテムを1つに絞り、1回に何百、何1000という数を販売する条件でないと、安く仕入れることができません。

土屋:すべてがつながっていますね。

内田:たまたま高田さんのトークの部分から語りましたけど、戦略のどの部分から話し始めても、全体像をスムーズに話すことができます。それは整合性があるからです。

どうして「ジャパネットたかた」はナショナルブランドだけを扱っているのかという部分から話し始めても、今とまったく同じ話が展開できます。

企業戦略はいくつかのパーツから構成されていますが、「よい戦略」は、どのパーツから話始めても、きちんと全体像を語ることができます。

土屋:使い方を丁寧に話す。ナショナルブランドを取り扱う。自前のスタジオを立てる。どこから話してもストーリーに矛盾がありませんね。

内田:そういう意味でワークマンもまさにその例だと思っています。ワークマンの戦略は非常に整合性が高く、ある部分では、ルイ・ヴィトンと共通の戦略をもっているのですが、それについては次回お話ししたいと思います。

内田和成

早稲田大学ビジネススクール教授
東京大学工学部卒、慶應義塾大学経営学修士(MBA)。日本航空を経て、1985年ボストンコンサルティンググループ(BCG)入社。2000年6月から04年12月まで日本代表。09年12月までシニア・アドバイザーを務める。BCG時代はハイテク・情報通信業界、自動車業界幅広い業界で、全社戦略、マーケティング戦略など多岐にわたる分野のコンサルティングを行う。06年4月、早稲田大学院商学研究科教授(現職)。07年4月より早稲田大学ビジネススクール教授。『論点思考』(東洋経済新報社)、『異業種競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『スパークする思考』(角川書店)、『仮説思考』(東洋経済新報社)、『リーダーの戦い方』(日経BP社)など著書多数。
Facebook:https://www.facebook.com/kazuchidaofficial
土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。