まず、Space。つまり、ICUの病床数は2017年のデータで10万人当たり5.6床(総数は7109床)だ(5)。2009年や2012年のデータで(コロナ禍で、先進各国は集中治療室のキャパシティを拡大した)米国34.7、ドイツ29.2、イタリア12.5、フランス11.6(6)、英国8.9床(7)である。厚労省医政局は2020年5月にintermediate care beds(中間ケア病床。集中治療室と一般病床の「橋渡し病床」。日本ではハイケアユニット:HCUなどがこれに当たる)も「ICU等の病床」国際比較に含め、10万人当たり13.5床(総数は1万7034床)とした(8)。しかし、後述するようにスタッフ配置の点で問題がある。

 空床はどれくらいあるのか。ICU、HCU共に70%超の利用率である(9)。利用されている病床数の45%程度が大手術後、同じく45%程度が急変(意識障害、急性心不全、急性呼吸不全、ショックなど)での利用だ(10)。つまり、全体のキャパシティの少なくとも30%(0.75×0.45)程度は大手術後で、急変も30%程度だ。ICU空床確保は少し状態の安定した重症患者を中間ケア病床に移動させることで可能だが、当然、その時々の中間ケア病床の空床率に左右される。予定の大手術を延期・中止するのが唯一計画的な方法で、パンデミック下で世界的に行われている。つまり、急変用に30%の病床を確保すると、残りの70%が利用可能となる。ただし、大手術の一部は救命目的の緊急手術で中止できないことに注意が必要だ。

 日本は個々のICUの規模も小さい。11床以上のICUやHCUは全体の2割だ。平均値はICUが8.7床、HCUが8.3床である(9)。従って、新型コロナウイルス患者を受け入れると、即座に通常診療に影響する。

 中等症のための急性期病床数はどうか。日本はOECD各国の中で人口当たりの急性期病床数が最も多く、1000人当たり7.8床である(10)。ちなみにドイツ6.0、フランス3.0、イタリア2.6、アメリカ2.5、イギリス2.0床である(10)

 しかし、日本で急性期診療をするにふさわしい7対1看護(患者7人に看護師1人を配置)体制で、しかも実際に急性期医療をしている実績のある病床数は1000人当たり3.3床に過ぎない(5)

 次にStaffである。ICUでは以下のような多数の項目を観察する。血圧、脈拍、心拍数、意識状態、呼吸回数、酸素飽和度、体温などのバイタルサイン(生命兆候)を24時間モニタリングし、人工物(点滴、気管チューブ、透析回路、ECMO回路等)刺入部の感染兆候や出血の有無、患者の表情、褥瘡(じょくそう)の有無、呼吸の様式、各種医療機器の作動状況、人工呼吸器と患者の呼吸の同調性、経管栄養の吸収具合、四肢の冷感、排尿排便の量等々である。患者の褥瘡防止目的で2時間ごとの体位交換、覚醒患者のメンタルケア、リハビリテーション、喀痰吸引、排尿排便介助、注射薬剤調整など多彩な介入が必要となる。臨床工学技士や理学療法士など多職種の関わりが必要で、圧倒的に多くを担うのは看護師だ。従って、看護師の配置が決定的に重要である。欧米先進国のICU は1対1看護だが、日本は2対1看護だ。つまり、スタッフ数はもともと逼迫(せっぱく)している。

日本は欧米に比べ
病床当たりの看護師数は少ない

 さらに新型コロナウイルス診療は通常の集中治療より人手を要す。感染防護具を付けて患者に接触するレッドゾーンと、感染防護具を外すグリーンゾーンは明確に区分される。ICUの薬剤の種類は多く、投与量も時事刻々変更する。薬剤を用意し、適宜適切に医療機器を導入するにはグリーンゾーンにも看護師が必要となる。感染防護具を身にまとって看護をすることは重労働で、適切な休憩も必要だ。さらに最重症呼吸不全の患者は12時間ごとにうつぶせ(腹臥位)とあおむけ(仰臥位)を繰り返す。欧米ではこの作業を8人がかりで行う(日本では4〜6人で行っていることが多い)。これらを考慮すると1対1看護が最低限必要だ。

 厚労省医政局が「ICU等の病床」に含めた中間病床とは、日本ではHCU(4対1、または5対1看護)等を指すことは述べたが、欧米の中間病床は基本的に2対1看護である。日本のHCUには酸素や空気の配管、吸引装置、電源など集中治療に用いる基本的なインフラはある。しかし、看護スタッフが圧倒的に足りない。日本のICUとHCUには1病床当たり、それぞれ3.4人、1.7人の看護師が雇用されている(12)。おのおのの病床数が7109床と1万0236床あるので、雇用されている看護師数は約2万4000人と1万7400人となる。4万人程度の看護師が高度急性期医療に携わる。

 ICUやHCU以外も含めた看護師数全体の過不足はどうか。

 人口1000人当たりの看護師数は、日本11.8、ドイツ13.2、フランス10.8、イタリア6.7、米国11.9、英国7.8人である。1病床当たりの看護師数は日本0.91、ドイツ1.7、フランス1.8、イタリア2.2、米国4.1、英国3.1人だ(13)。つまり、人口当たりの看護師数は他国と同等だが、病床が他国より多い。従って、病床当たりの看護師数は少ない。先に述べたように新型コロナウイルス診療には通常より多くの人手を要する。他国と同等程度の看護師数で、より多くの患者を診ている日本の看護体制は磐石とはいえない。

 Supplyはどうか。最新の調査によれば日本国内にはおよそ4万5000台の人工呼吸器と2200台のECMOが存在する(14)。ちなみにECMOの台数は「治療の質」を考える際には重要だが、集中治療のキャパシティを考える際には傍論である。圧倒的に適応される機会が多いのは人工呼吸器だからだ。

 ここまで話をまとめよう。

 Spaceは全ての予定手術を中止したと仮定すると、ICUのキャパシティの70%程度を確保できるかもしれない。しかし、新型コロナウイルスの重症患者の診療には普段の2倍の看護師数が必要なので、実際にはICUの病床の35%相当の重症患者が収容の上限となる。調整のための空床や緊急手術も考慮すると、最大で30%程度と見積もるべきだろう。日本には7109床のICU病床がある。その3割、2132床程度が日本の新型コロナウイルス感染症重症患者数の上限となる。人工呼吸器には余裕がある(狭義の重症患者と、もうすぐ人工呼吸器が必要な患者や人工呼吸器離脱直後の患者を合わせて「広義の重症患者」とする。2021年1月13日の東京を例にとると、狭義の重症患者が141人、広義の重症患者が523人だ。ICUには狭義の、HCUにはそれ以外の広義の重症患者を充てるのが良い)。

 中等症向けの一般病床は世界と比べ突出して多いが、実際に急性期医療をしている病床数はさほど多くない。看護師数は他国と変わらず、病床当たりの看護師数は少ない。

 キャパシティを検討する際の4つのSの最後は、Systemである。この点を次に検討する。