スタートアップの成長とともに増えていくのが経営課題。それらを適切に解決し、新たなフェーズの成功につなげる経営チームのあり方とは?
グロースキャピタルの目線で、「経営機能の充足度」について考えます。

歯車Photo: Adobe Stock

「CxOがどれだけいるか」は重要ではない

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):今回は、レイトステージのグロースキャピタルを運営する立場で、経営チームのどういった点に着目しているかについて、考えてみたいと思います。

チーム力の構成要素として、我々は大きく5つの点に注目しています。

1点目は「経営機能の充足度」、2点目は「経営チーム内の関係性」、3点目は「対外的な折衝力」、4点目は「組織マネジメント力」、そして最後が「エグゼキューション(実行)力」ですね。今回は「経営機能の充足度」について考えてみましょう。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):レイトステージの上場を見据えたフェーズになると、多くの企業にはいわゆるCxOがいるわけですよね。技術部門のCTOだったり、財務部門を見るCFOだったり。

単にそうした役職の人がいるかどうかではなく、必要なテーマに対する適切な専門性や実行力を持つ人がいるかどうかが重要です。

朝倉:そうですね。具体的にCxOなどと呼ばれる人がいればそれで良いかと言うと、決してそうではありません。レイターステージのスタートアップであれば、上場会社として耐え得るような経営を目指すに当たって必要なファンクションを担える人がいるか、しかもそれらをきちんと役割分担してこなせているかといったところが重要なポイントですね。

小林:財務戦略や技術戦略について、しっかり腰を据えて考える能力のある人がいるかどうか。我々はそうした側面を「経営機能」と表現しており、経営体制の中にしっかり取り込まれているかを見ています。

トップの「自身の限界に対する認識」をどう生かすか

村上誠典(シニフィアン共同代表・以下、村上):スタートアップはどうしても社長への依存度が高いものです。どれだけ機能分化、デリゲーションを進めてきたかは、経営機能充足化に向けたCEOの「トラックレコード」として見ることもできます。

小林:経営機能を担える人が組織にいないのは、CEOが代わりになっているからというケースがやはり多い。結果的に属人性が高く、今後の成長に向けてCEOがボトルネックになりやすい様は、よく見られる構造だと思います。

朝倉:トップマネジメントに必要な資質を論議した際、4番目に挙げたのが「自身の限界に対する認識」でした。まさに、これの裏返しですね。トップが自らの能力を把握した上で、足りない部分をどのように手当てするか。その結果が端的に表れるのが「経営機能の充足度」だと思います。

役職の「大量発生」は成長のボトルネックに

村上:逆に言うと、タイトルだけ周りに配って、実質的な機能分化もデリゲーションもできていない状況は、むしろネガティブです。中途半端に役職だけどんどん与えてしまえば、本当に必要とする分野の経営機能を担える人を採用しづらくなるということでもあるので。

朝倉:起こり得るのが、採用段階でとにかく人が欲しいばかりに、何かそれらしいタイトルを与えようという状況。実態や役割がよくわからない職位を、無計画に配ってしまう会社も、たまに見受けます。「何とかオフィサー」など、聞いたことのない役職の人が溢れている状況です。

村上:必要な経営機能が相応の人や組織にうまくデリゲーションされて、しっかり効果を発揮しているか。やはり、そこを重視すべきでしょう。

朝倉:迎え入れる人の存在をどれだけ尊重しているかという面と、実際の役割におけるファンクションはしっかり分け、規律を保って組織づくりする必要があります。役職だけでなく、経済的インセンティブを設計することもできるわけですし。

悪い意味での領空侵犯やダブリが頻発すれば、社員は誰を見て業務に取り組めば良いのかが分からなくなる。そうした状況は、役職が「大量発生」している場合に起こり得るのかなと思います。

村上:初期フェーズのスタートアップには、営業力が牽引する場合やプロダクト力が活きる場合など、いろいろな成長のパターンがあり得るでしょう。ただ、せっかくそうした力があっても他の要素がお粗末だと、いずれどこかで成長のボトルネックになってしまう。だからこそ「経営機能の充足度」というのが、非常に重要なのだと思います。

*本記事はVoicyの放送を加筆修正し(ライター:岩城由彦 記事協力:ふじねまゆこ)、signifiant style 2020/11/8に掲載した内容です。