会社の規模拡大に伴って重要性を増すのが「組織マネジメント力」です。上場後のエンゲージメントも見据えるグロースキャピタルならではの観点から、適切なスケーラビリティのあり方を考えます。
さまざまなマネジメント・レイヤーが存在するレイトステージの組織
朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):今回は、レイトステージのスタートアップにおける経営チームの「組織マネジメント力」に注目して考えてみたいと思います。
小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):レイトステージに入った組織の多くは規模も大きくなり、さまざまなマネジメント・レイヤーが存在するわけです。マネージャークラスもいれば部門長もCxOも、CEOもいると。
まずは、こういった人たちの役割分担がきちんとできているかどうかがポイントです。「1人のトップとその他大勢」のような組織ではなく、それぞれのレイヤーが自らの権限や責任を認識し、適切に動く体制になっているか。これは重要ですよね。
村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):裏を返せば、30人から50人程度の規模で大きな収益を上げられる会社であれば、厳格な組織制度までは適用しなくても良いということかもしれません。
小林:カリスマ的な能力と人気があり、「この人が言うだけで万事うまくいく」というほどのマネジメント力を誇る創業者も世の中にはいます。そういう人が組織全体を1人で見られる規模の会社では、仕組みがどうこうと言わなくても、組織が回っているケースもあります。
朝倉:たしかに、社員が5、6人のような段階のごくごく初期的なスタートアップで、「うちの組織図はこうなっていて、これは誰の担当だから」なんてことを言っていたら、ピントがズレているかもしれませんね。「そこは全員野球だろう」と。
村上:一方で、レイトステージのスタートアップの多くは、上場後の成長過程で数百人規模に拡大することを志向しているものです。
このフェーズになると、組織マネジメントに関しては、ある程度の取り組みがなされ、結果も出ているでしょう。そうした結果を踏まえ、体制や評価制度などを継続的に見直すべきなのでしょう。そうすることで、上場に向けて、何が欠けているのかも見えてきますから。
「機能分化」と「会社としての一体感」の両立を
朝倉:会社の成長ステージが進むにつれて、個人のスキルだけでなく、それらを掛け合わせた組織の力がより重視されるようになります。だからこそ、レイトステージのスタートアップにエンゲージメントする我々としては「組織マネジメント力」に注目しています。
こうした「組織マネジメント力」の力量は、どんなところに表れるでしょうか。
小林:属人的な運用に頼らず、会社全体の仕組みとして回っているかが、ひとつの判断ポイントでしょうね。
村上:役割の整理や権限移譲、評価、目標設定といったものでしょうね。組織が大きくなる中で、こうしたものをしっかりと整理して、ユニットごとに管理できているかに注目しています。
小林:組織を円滑に拡大するための仕組みが整っているかどうかですね。
公明正大な人事評価制度だったり、きちんと明示された組織ごとの役割や権限、KPI(重要業績評価指標)だったり。責任、権限、評価の仕組みがどうなっているかというのは、重要なポイントかなと思います。
村上:往々にして不足しがちなのが、KPIの管理と、それに紐付くマネジメントです。そもそもKPIを設定していない、あるいは不十分といったケースをしばしば目にします。また、KPIは管理しているものの、それが意思決定に活かされていないといったケースもあります。
朝倉:ここ数年だと、スタートアップでは目標管理ツールの「OKR(目標と主要な結果)」が非常に注目されていますね。米国のベンチャーキャピタル「クライナー・パーキンス」のパートナーであるジョン・ドーアは、投資先に対しても繰り返し「OKR」の重要性を指摘するそうですね。
村上:KPIが本当の意味で組織マネジメントに活かされているかを見極めるのは、なかなか難しいものですが、この活かされ方次第で、その後のスケーラビリティも大きく左右されます。意思決定のスピード感、質の高さを担保する源泉ですからね。
小林:責任、権限、KPIがすべて明示され、インセンティブもはっきりしており、あらゆる仕組みがうまく整っているにもかかわらず、実際にはものすごく「縦割り」になっている会社もあります。
機能分化を果たす一方で、会社として一体感のあるカルチャーを作り出せているか、必要な情報共有がスムーズにできているか。両立させるのは非常に難しいでしょうが、こういったところも注意して見ていきたいですね。
*本記事はVoicyの放送を加筆修正し(ライター:岩城由彦 記事協力:ふじねまゆこ)、signifiant style 2020/11/23に掲載した内容です。