皆に慰留されたから?一番の被害者は誰か

 しかし、組織委は逆の動きをしている。

 2月6日の毎日新聞の報道には驚いた。「森氏、会見の舞台裏を明かす『辞任する腹決めたが説得で思いとどまった』」というタイトルで、森氏が自ら辞任も考えたが、武藤事務総長はじめ皆から慰留され、「5000人の組織はどうなりますか?」と言われ踏みとどまったという内容だ。

 国内外からの批判は止まず、いばらの道でも会長職を全うするのかという問いかけに「みんなの支えで」と答える。まるで森氏が被害者であるかのような展開である。

「痛手を負ったトップを皆で助け、共に戦おう!」ということか?しかしこの場合の被害者は誰か?東京五輪・パラリンピックそのものではないのか?

 スポーツ界の会長職はある意味、名誉職である場合が多いが、森氏は行動型の会長として、活発に動いてきた。7年間君臨してきたことになるその組織委の能力は、バッハ会長から世界一の五輪組織委員会と言われるほど評価されてきた。

 しかし、実際には組織委の実務は事務総長の下で動く。既に会長の働きがなくとも機能するまでに成熟しているだろう。半年後に迫った五輪準備を効率的かつ迅速に進めるにはトップギアにしなければならない。会長の使命は実務から東京五輪の象徴に移行すべき好機でもあるのではないか?

森氏のスポーツ界への貢献ぶりは評価に値する

 森氏の日本スポーツ界への貢献は誰もが認めるところだ。2005年に日本体育協会(現・日本スポーツ協会)の会長に就任し、2011年に退任するまでの間に、首相経験の政治力でスポーツ界の振興基盤を作り上げ、財政基盤を安定させた。2011年6月に成立するスポーツ基本法、2015年10月に設立されるスポーツ庁は彼の尽力がなかったら実現しなかったはずだ。スポーツ界での森氏への信頼は高まり、2019年のラグビーW杯の日本招致の成功と大会の成功、そして2020年東京五輪招致の成功として結実する。東京五輪の招致についての醍醐味は現役の首相をあたかも駒のように使った手腕である。開催が決まる直前の首相の中東・アフリカ4カ国歴訪やロシア訪問も森氏の戦略が含まれているはずだ。