細かい強みの分析で
「非財務情報」の数値化も

 職場でテストをして、一人ひとりがどの意識構造なのかを特定し、さらにどの強みをどのくらい持っているかを可視化し、部署ごとに見たりすることで、「このチームにはもっとリーダーシップを取る人が必要なので、意識構造が(4)の人をここに異動させよう」とか、「XXさんにはそろそろ役員になってもらいたいが、それには少し傾聴力が足りないので、○○の仕事を1年間経験させて、傾聴力を完備してもらおう」といった人材開発が可能になる。

 さまざまな切り口で縦横にデータを見ることで、どのプロジェクトを経験した人がどの強みをより増強させたかということや、特定の部署ではある強みの成長が見られない、とか意識構造がXの人に偏っているなどということもわかる。これまで多くの企業の人事や上司との面談では、あなたはこういう性格で、こういうことが得意だから、ここに異動してもらいますね、といったやりとりがされていただろうが、それが極めて厳密に客観的に測定されて、数値化され、合理的な教育や異動が可能になるのだ。その結果、本人の生きがいは上がり、チームの歯車もうまく回り、企業価値も最大化されるというのが目指すべき状態である。もちろんeumoグラムでは同時にフロー、ユーダイモニア度も測定しているので、社員がユーモアウトするための環境を整え、研修などを通して自己啓発を促していく。

 そもそも、水野氏がこのモデルを手がけた端緒は、ヤフーで社長付という立場にあった際に、企業の非財務の価値をどのように可視化するかを考えていたことにさかのぼる。

 現在、ESG投資が注目を集め始めており、企業はますます財務情報以外の非財務の資産を公表することが求められている。ゆくゆくは、企業がどのくらいポテンシャルのある人材を有しているか、企業の従業員がいかに自律的に、幸福度の高い状態で、パフォーマンスを発揮できているかが、企業の成長を見極める際の評価の対象となるだろう。従来はそれを定量的に測る方法がなかった。水野氏のモデルはそれを数値化し、これまで企業が可視化できていなかった、企業の「本当の価値」を測定するものともいえる。

 現在複数の大手企業が水野氏の研究所にコンサルティングを依頼し、eumoグラムを活用したオーダーメードの人材育成、能力開発に取り組んでいる。これからデータが蓄積され、働き方、能力開発、幸福度、生産性などに関する相関関係が明らかになっていくだろう。現在はアンケートによる測定だが、脈拍などのヴァイタルデータを測ることで、より精緻なデータの取得を目指して実験、検証中だ。

 理論的には、eumoグラムを適切に適用し、人材育成・組織開発を行うことで、誰もが、苦手な領域や分野を計画的に適切に補いながら、自分の働きやすい場所で、自分の能力をよりよく活かし、ワクワクしながら、生きがいを感じて働くことが可能になるかもしれない。

 遠くない将来には、日曜の夕方になると月曜からの仕事を思い出して憂鬱になる「サザエさん」症候群も絶滅し、「いやいや仕事をする」「無理に笑顔をつくって、苦手な接客をする」といった状態は仕事の場では一掃されているかもしれない。それは「やる気がないやつは辞めてもらう」と叱責する上司がいて、リストラが行われるからではない。eumoグラムによるikigai把握によって、職場環境や自分の状態が絶妙にコントロールされ、知らないあいだにやる気が出たり、やる気がある状態になるからである。そのとき、私たちは「ここにいる全員、死ぬ気で今週中に契約数を2割アップしろ」と号令がかかるような職場を、懐かしく思っているだろうか。