「こんまり」こと近藤麻理恵は、今や世界で最も知られる日本人の一人。彼女の世界進出を手がけてきたプロデューサー兼夫の、私の初めての書籍『Be Yourself』が発売されました。本書で伝えているのは自分らしく輝くことの大切さ。今回は楽天という巨大企業でCWO(チーフ・ウェルビーイング・オフィサー)として社員が自分らしく輝く取り組みを実施し、みずからも自分らしくある小林正忠さんに話を聞きました。(構成:宮本恵理子)。

川原卓巳さん(写真左)と小林正忠さん(写真右)

川原卓巳さん(以下、川原):セイチュウさん(小林正忠さんの愛称)は楽天の創業メンバーであり、現在の役職はおそらく日本に一人しかいない「Chief Well-Being Officer(CWO)」。まさに企業に新しい価値を創造するビジネスリーダーです。

 僕の妻で、片づけコンサルタントの近藤麻理恵が提唱する「こんまりメソッド」にも深い理解と共感を示してくださって、アメリカや日本で何度もお会いしました。

 2019年8月に楽天と僕たちの会社「KonMari Media Inc.」がパートナーシップを締結して以来、関係は一層深くなりました。

小林正忠さん(以下、小林):当社には創業以来、毎週月曜の朝に欠かさず掃除をするカルチャーがあります。(会長兼社長の)三木谷(浩史)を含めて、全社員が自分の働く場を整える時間を通じて、仲間とともに高い価値を生みだす空間にしていく。掃除にはそんな意味が込められています。

 この掃除の習慣は、日本では当たり前のように浸透したのですが、会社が大きくなって世界展開を進める中で、特にアメリカの企業文化には浸透しづらいという課題がありました。なぜなら、彼らにとって、「掃除は外注するもの」という認識が強かったからです。

 私が楽天アメリカ本社CEOだった2012年~2014年の頃も、夜にオフィスで仕事をしていたら、清掃業者の方が入ってきて床を掃除機かけ、ゴミ箱の中も片づけてくれるんです。私が彼らに話しかけながらゴミ箱を持っていったりしていたけれど、まさかCEOとは思われていなかったかもしれません(笑)。

 その後、アメリカの責任者が現地社員になり、彼も私と同じように「掃除」の壁にぶち当たっていました。そんな社会背景の中で、自分の持ち物を片づける習慣を身につけると、すばらしい価値が生まれるということを何とか伝えられないものかと現地の経営層が議論し、「そうだ、KonMariの力を借りよう!」とひらめき、現地から三木谷に提案がきました。

 Netflixでのドキュメンタリー配信以来、KonMariはアメリカでも大人気で、道行く人のほとんどがその名を知っています。アメリカ人にリスペクトされているこんまりさんに、楽天のブランドアンバサダーになっていただけたら、社員も片づけに関心も持ってくれるはずだと彼らは考えたようで、三木谷も賛同し、三木谷自ら、友人を介してすぐに動きました。

川原:うれしいご縁でした。僕がセイチュウさんを尊敬してやまないのは、ビジネスで圧倒的な成果を出しながら、5人の子どもの父親として、ファミリーファーストな生き方を実現されているから。まさに『Be Yourself』のお手本です。

 今日はずっと聞きたかった「なぜ、セイチュウさんは自分らしさを極められたのか」について、じっくりと伺わせてください。

小林:私もこうして話せるのがとてもうれしいです。卓巳さんをひと言で表現すると、「コミュニケーションの達人」。初めて三木谷と話している様子を見て、短時間で本質的な議論ができる方だし、三木谷も期待と信頼を寄せていることがよく伝わってきました。「この人、天才!」って思いました。

 卓巳さんが、ほかの人と何が違うのか考えてみると、やはり「自分らしさ」を軸にして、相手と向き合える人という点があります。三木谷を前にしても、卓巳さんは「楽天に合わせる」のではなくて、あくまで「こんまりの価値を守りながら、楽天とWin-Winの関係を築く」というスタンスを変えません。すごい人だなと、初対面の時から尊敬しています。

川原:恐縮です。僕もセイチュウさんにお会いして、なぜ楽天という会社がここまで大きくなれたのかが理解できたんです。

 楽天に出店する店舗さんが集まる展示会を一緒に見学させていただいたとき、セイチュウさんが店長さん一人ひとりと声を交わしているのを目撃して、驚いたことを覚えています。「うわぁ、自分の足で汗をかいて、太い関係性を築いてきた人なんだ」と瞬時に分かりました。

小林:ありがとうございます。卓巳さんは、自分が自分らしいだけでなく、周りの人を自分らしい状態にさせる才能を持っていますよね。『Be Yourself』もさっそく読ませていただきましたよ。

 読んでビックリしたのが、卓巳さんの本なのに「麻理恵さん」という名前が数え切れないくらい出てくること(笑)。ここまで妻の名前が登場する本はなかったんじゃないですか。それも、“さん付け”の呼び方を含めて、お二人の普段の深いパートナーシップの表れなのだと感じられました。

川原:お気づきになりましたか(笑)。そうなんです。僕たち夫婦の関係は、おそらく日本の昭和的な夫婦観と比べると非常に特異なものだと思います。互いにプロデュースし合って、高め合っているような、いい関係を築けていると思っています。

 実際、2013年から一緒に仕事を始めて家庭も持つようになってから、24時間365日、公私ともにパートナー関係を続けているので、切り離せない存在なんです。

小林:お互いに対するリスペクトが伝わってきましたよ。今回、「Be Yourselfのロールモデルとして」と対談のオファーをいただいたとき、こんなに自分勝手な私みたいな人間ばかりになったら社会が崩壊しちゃうんじゃないかと心配になったんです(笑)。

 みんながみんな、自分らしく生きられて、それをみんなが受け入れて。そんな世の中が実現したら理想だけれど、現実には難しいですよね。「自分らしさよりも調和が大事」と教えられてきた人がほとんどですから。

川原:おっしゃる通りです。だから僕は今、日本の教育に一番関心があって、未来志向の教育に挑戦しているキーパーソンに会ったり、オンラインで話をする機会を増やしたりしているところです。

小林:楽天創業メンバーで、2020年に軽井沢に風越学園を設立した本城慎之介も頑張っていますよ。

川原:はい、ぜひお会いしたいと思っています。

小林:風越学園もまさに、「あなたは何がやりたい?」と色々な形で子どもに問い続ける教育をしているので、まさに「Be Yourself」の感覚が育つ環境をつくっていると思います。

 小学校・中学校とあって、なぜ高校はつくらないのかと疑問だったのですが、彼に聞いてみると、「中学校までに自分の人生を自分で考えて切り拓く力を備えられたら、その後は自分で主体的に選べるはずだから」と説明してくれました。なるほどと納得しました。

 変化と多様性の時代においては、どんな環境でも自分の軸を持てる知恵が必要です。大人だってこれからでも遅くないから、もう一度自分自身を見つめ直す時間を持てたらいいですよね。

川原:まさに、今日はそれができるようになるためのアドバイスを、セイチュウさんからいただきたいんです。「小林正忠」という人間を形成している要素を因数分解していただけますか。