夭折した息子が教えてくれたこと
小林:3つあります。父親の教え、福沢諭吉の教え、息子の教えです。
父親から教わったのは「感謝の心」。私は親から「勉強しろ」とは一切言われずに育ち、本当に勉強せずに成績が悪かったというレアなタイプなんですけれど(笑)、代わりに叩き込まれたのが礼儀を重んじることでした。「今、自分がこうして生きていられるのは、すべて周りの人のおかげだと思いなさい」と。
昔、散歩をしているときに父親から「なぜここに道があるか分かるか」と聞かれ、私が「分からない」と答えると、返ってきたのは「ご先祖さまが道をつくってくれたから、ここに道がある」。だから、道を歩くときにも感謝せよ、というわけです。日頃から感謝の心を持つクセが染みついているので、楽天が順調に成長しているときにも「店舗さんのおかげです」と伝え続ける行動に結びついたんじゃないかなと思います。
川原:すばらしい教えですね。
小林:二つ目の福沢諭吉先生の教えというのは、単純に6歳から22歳まで慶應義塾で学んだ経験から「自我作古」、周囲が無理だと思っていても、自身が信念をもって挑戦すれば道(歴史)は自ら作れるという考えが身につきました。
最後の息子からの教えというのは、2番目と3番目の間にいた、生後9ヵ月で亡くした息子から教わったことです。出産当日に病気が発覚して亡くなるまでの期間、彼を抱っこするたびに「この子は1秒を懸命に生きている。父親である自分は、1秒を本当に大切に生きられているのか?」と自身に問うていました。
挑戦すべき課題が目の前に突きつけられたなら、やらないという選択肢はなくなるわけです。「人生は1秒もムダにできない。生きている限り、思い切りやりたいことをやろう」という信念を息子から与えられました。
このメッセージは新人研修でもよく話すことで、つい感極まってしまうこともあるのですが。
川原:……(涙を流して絶句)。話してくださって、ありがとうございました。セイチュウさんにとって大切な教えを、ご自身の人生に活かし続けるために心がけている習慣はありますか。
小林:息子の月命日に合わせて月1回、家族全員で墓参りに行くんです。お墓には息子だけでなく、祖父母や、さらに遡ったご先祖さまがいるので、手を合わせるだけでも感謝の気持ちで満たされますし、「これからも1秒を大切に生きます」と改めて誓いを立てる機会になります。どんなに忙しくても、最優先して時間をとっています。
川原:ピットインのような、自分自身に向き合って心を整えるような時間なのですね。
小林:日常生活の中に必要な「間」、余白ですね。(対談の続きは2021年2月26日公開予定)