
非鉄大手の住友金属鉱山は、社員の年収では大手総合商社などにかなわないが、採用活動は好調だ。離職率は高い年でも3%程度で、社員の定着ぶりが顕著なのだ。人気の低下が指摘される国内製造業の中で、同社が人材確保に成功しているのはなぜなのか。連載『メーカーの採用力 待遇・人事の真実』の本稿では、住友金属鉱山の「超・低離職率」の理由を解明するとともに、同社の人事施策の成果と課題を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)
地方への転勤という「不人気要素」があっても…
社員が定着する住友金属鉱山の人事施策とは?
コンサルや大手総合商社ほどの年収や華やかさがない製造業には、人材確保に苦しんでいる会社が多い。「男社会」イメージの強さや、転勤があることも学生から敬遠される理由となっている。
特に、実生活で最終製品に接する機会の少ない素材産業は地味なイメージを持たれがちなため、各社が人材確保に苦労しがちだ。
そんな中にあって、非鉄大手の住友金属鉱山の採用活動は絶好調だ。連結で約7400人の社員を抱える同社は、毎年新卒と中途を合わせて100人強を採用しており、継続的に人員を獲得している。
就職市場でのライバルは同業とは限らない。海外大手資源メジャーは給与面では住友金属鉱山を圧倒するが、海外の鉱山地帯に長年住み続けることを求められるため、国内居住がキャリアの大半を占める日系非鉄企業とはバッティングしないという。
鉱山開発などごく一部の専門分野では国内同業他社と競合するものの、本当のライバルは同業ではない。住友金属鉱山自身が採用ターゲットの視野を広げているため、石油や商社、インフラなど他業界がライバルになるというのだ。
しかし、単純に年収だけを比較すると、大手商社にはかなわない。住友金属鉱山が有価証券報告書で公表している24年度平均年収は790万円だが、総合商社の三菱商事は2033万円で、圧倒的な差がついている。
それでも、住友金属鉱山は深刻な人材難には陥ってはいないようだ。同社の離職率を見ると、労働市場の流動化の影響で若干増加傾向にあるものの、過去10年間で1~3%(定年退職者を除く)と低位で推移している。
昨年公表された厚生労働省の「令和5年雇用動向調査結果の概況」によると、全産業の離職率は15.4%、「製造業」や「鉱業、採石業、砂利採取業」はいずれも9%台だ。データを出している官公庁や企業によって離職率の定義に若干の差があるとしても、住友金属鉱山の離職率は同業他社に比べて突出して低いと言える。
これはつまり、社員にとって同社が「居心地の良い会社」であることを意味する。その秘訣はどこにあるのだろうか。
取材を進めると、給与が大手商社よりも低く、かつ転勤が不可避な会社であっても社員がいきいきと働き続けられるための秘策が見えてきた。
次ページでは、住友金属鉱山の「超・低離職率」の理由を解明するとともに、同社の人事施策の成果と課題を明らかにする。