「お金持ちになるにはどうしたらいいのか」という疑問にこの連載ではいろんな角度から答えを示していきます。お金持ちなら誰でも知っている秘密を明かしていきます。
その疑問の答えにたどり着くには「お金」「経済」「投資」「複利」、そして「価値」について知っておく必要があります。少し難しい話も出てきますが、今は完全にわからなくても大丈夫です。
資本主義の仕組みについても、詳しく解説していきます。なぜなら、資本主義の世界では、資本主義をよく知っている人が勝つに決まっているからです。
今後の答えのない時代において、どのように考えながら生きていけばいいのか、ということもお話ししていきたいと思います。さあ、始めましょう!
(もっと詳しく知りたい人は、3月9日発売の『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(ダイヤモンド社)を読んでください)

GDPPhoto: Adobe Stock

日本の一人当たりのGDPは世界25位

2019年における名目GDPの総額ランキングは、1位が米国で、2位が中国。そして3位が日本です。この順位を指して、「日本は世界第3位の経済大国」と言われています。

でも、ほんの10年前、米国に次ぐ世界第2位の経済大国の座を維持していたのは日本でした。それが2010年に中国と入れ替わったわけです。日本が再び世界第2位に返り咲けるかというと、なかなか難しいと思われます。何しろ中国の名目GDPに対して、日本のそれは3分の1強でしかなく、この10年で大きな差をつけられてしまったからです。

それでも「世界3位なら立派じゃないか」と皆さんは思うかもしれません。でも、これを総人口で割って、「一人当たりGDP」という数字を出してみると、がっかりします。

日本の2019年の一人当たり名目GDPは443万7000円になります。これを国際比較してみましょう。IMF(国際通貨基金)の推計値になりますが、日本は何位になると思いますか?

「ええっと、10位くらいですか?」

残念ながら不正解です。

1位はルクセンブルクの11万4705米ドル、2位がスイスの8万1994米ドル、3位がアイルランドの7万8661米ドルです。そして日本は25位の4万247米ドルになります。25位です。ちょっとがっかりしましたね。

なお、日本の一人当たりGDPの推移を見ると、次のようになります。

2000年......3万8532米ドル(2位)
2010年......4万4508米ドル(17位)
2019年......4万247米ドル(25位)

日本の一人当たりGDPは、金額自体は少しずつ増えているものの、その他の国と比べた時のランキングは、年を追うごとに後退しています。なぜならば、他の国がもっと成長しているからです。資本主義の世界において、経済は年々成長していくことが基本にあります。現状維持は落ちていくことと同じなのです。

現在の日本経済は、かなり厳しい状況にあるのです。

日本に追いつかれたけど、ITで復活した米国

なぜこうなってしまったのか?

自動車産業や家電産業で一時はアメリカに追いつくところまで行った日本ですが、時代の流れでその座は中国や韓国に奪われてしまいました。日本人の給料が高くなってしまったので、人件費の安い中国や韓国の製品には価格競争で負けてしまうのですね。

本来であれば付加価値の高い製品やサービスを作り、売上を伸ばしてどんどん稼ぎ、従業員にきちんと給料を支払う。企業も個人もその稼ぎから税金を納める、そうして経済のパイを拡大していくというのが、正しい在り方です。

かつては日本発で世界中に広がった画期的な発明がいくつもあったのですよ。

今では世界中で当たり前になっている音楽を屋外で楽しむという行為は、ソニーが発売した「ウォークマン」で可能になりました。電子ゲーム機を最初に持ち運びできるようにしたのは任天堂です。インスタントラーメンを発明して世界的な商品に育て上げたのは日清食品です。しかしこの30年、日本から世界中の人々に喜ばれる発明は生まれたでしょうか?

一方、一時は日本に追い詰められた米国は、IT(インフォメーション・テクノロジー)という新しい産業を生み出して復活しました。今ではGAFAと言って、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンといったIT企業が世界をリードしています。

でも、ほんの20年前にはフェイスブックはありませんでした。グーグルやアップルやアマゾンだって、吹けば飛ぶような小さな会社だったのです。

日本はITの分野で遅れをとってしまいました。ITに代わる新しい産業も見つけられていません。新しい産業を生み出せるかどうかは、今後の日本の大きな課題です。そしてそれは、君たちの肩にかかっているのですよ。

参考記事
爆発的成長を可能にした
「近代最大の発明」とは何か?

「トゥキュディデスの罠」

資本主義の世界で「現状維持」は<br />落ちていくのと同じである
奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアであり、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネージャー。機関投資家向け投資において実績を積んだその運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『教養としての投資『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(ダイヤモンド社)など。