給料に不満があった45歳の営業部長は、一念発起して、会社を辞めて起業した。部長時代の顧客に営業をかけて、契約を獲得するなど順調だったが、それを知った前職の社長が「営業妨害ではないか」と怒ってきた。(社会保険労務士 木村政美)
創立30年の会社で建物設備のメンテナンスを行う。従業員数100名。
<登場人物>
A:甲社の元営業部長。45歳。独身。退職後、設備メンテナンス会社を設立。乙社長とは懇意にしている。
B:甲社の社長。50歳。営業部を新設するまでは一人で新規顧客の開拓や既存客のフォローを行っていた。
C:Aの後任となった営業部長。45歳。
D:甲社の顧問社労士。
乙社長:Aが営業したことがきっかけで、甲社と取引するようになった乙会社の社長。
名ばかり部長、給与に不満を募らせる
Aは大学を卒業後、甲社で建物設備のメンテナンスを担当していたが、入社10年目に会社の経営規模を拡大する目的で新設された営業部に移った。その後、新規の顧客を数多く開拓し着々と実績を積み上げた功績を認められ、5年前に営業部長となった。
しかし部長とは名ばかりで権限がないばかりか、給料のアップもA自身が期待していたよりも些少だった。Aは特に給料の処遇について、態度にこそ出さなかったが、心の中ではB社長への不満を募らせていた。
そして昨年の春以降、コロナ禍の影響により営業活動が制限され業務量が減ったので、定時でサッサと会社を後にし、そのまま自宅近くの居酒屋ののれんをくぐり晩酌をたしなむようになった。そして酔いが回ってくるとマスターに向かって、自分の会社での功績を褒めたたえた後、
「あのクソ社長め!誰のおかげで会社が儲かっていると思ってるんだ!俺は営業部長なんだからもっと給料をよこせ!」
などと、B社長の悪口を言いまくっていた。