中小・ベンチャーのAI&DXは?
──「お金がないからできない」は言い訳
堀田 大企業の場合は、パーパスの実現に向けて全社的なうねりをつくっていくのが肝になりそうです。一方、ベンチャーや中小企業の場合は、AIとどういうふうに向き合うべきなのか。率直なところをうかがいたいと思います。
私自身はAIベンチャーを創業した身でもありますし、当然AIは必要だという立場ですが、一方で、ハーベストループがきちんと成果を出すまでは持ち出しが続くわけで、資金力のないベンチャーがどこまで先行投資に耐えられるかという切実な問題があります。夏野さんはベンチャー投資もされているとお聞きしていますが、ベンチャーや中小企業にとってのAIについては、どうお考えですか?
夏野 ベンチャーも中小企業も、大企業と戦っていく、あるいは、大企業がもっている市場に切り込んでいくときの切り口は、テクノロジーしかないんです。テクノロジーという観点でいうと、いまいちばんホットな武器、最先端で切れ味のいい武器はAIです。大企業がまだ活用しきれていないからです。
これを武器にできないのであれば、ベンチャーをやめたほうがいいと思います。イニシャルの投資に耐えられるかという話はありますが、ベンチャーを起業した時点で、その覚悟はできているはずなんです。ベンチャーにとっての問題は、むしろ、人のアサインが間に合わないことです。成長するベンチャーほど、人材が絶対に不足する。そうなると、大企業と同じような生産性でやっている限り、絶対に勝てません。だから、テクノロジーをフル活用して、一人あたりの生産性を極限まで高めて切り込んでいかなければ勝負にならないんです。そのためには、最先端の武器が不可欠です。その武器がない状態で事業をやるなら、最初からやらないほうがいいと思います。
それに、いまほどベンチャーとか中小企業が資金調達しやすい環境なんて、ほとんどないはずです。お金が余っているからです。なので、いまは、ゲームプランを描き、リスクをとったうえで、一気に切り込んでいく大きなチャンスです。これを逃す手はない。
平野 私も同じ意見で、『ダブルハーベスト』の中でも紹介されているアメリカの損害保険会社「レモネード」はいい事例です。彼らは設立6年足らずで時価総額5000億円を超えています(2021年4月時点)。創業5年目でここまで大きくなったのはすごいことで、彼らは従来の保険会社とはまったく違うサービスをつくっています。
チャットボットと90秒ほど話をするだけで保険に加入できて、何か事故があったときには数分でお金が振り込まれる。そういうUX(ユーザー体験)をAIによって実現しています。既存の保険会社が同じことをやろうと思っても、従来のオペレーションと矛盾することが出てきてしまったりして、なかなかできません。しがらみのないスタートアップだからこそ実現できたサービスです。
レモネードは、チャットボットのやりとりで得られたデータを使って、よりよいUXを提供するというループを回しているだけではなく、不正請求を見破ったりするためのループなど、複数のループを同時に回しています。彼らにできたのですから、我々日本のスタートアップもそういう事例をどんどんつくっていかなければ、と思っています。
堀田 私も夏野さんに同意します。いまはAIをはじめ、いくつかの技術が同時多発的に出てきて、それを使えない状態で勝負するのがだんだん難しくなってきています。それに、いくら動きが鈍いとはいっても、大企業も5年くらいのスパンでは確実にキャッチアップしてくる。機動力の高いベンチャーや中小企業は、いまこそAIを活用して先行者利益を追求すべきタイミングだと思いますね。
夏野さんには『ダブルハーベスト』にすばらしい推薦コメントをいただきましたし、われわれとしては日本企業のAI実装を後押しするお手伝いを、これからもどんどん加速していきたいと思っています。本日はお時間をいただき、ありがとうございました!
(鼎談おわり)