新型コロナ拡大を機に日本でも急速に広まった「テレワーク」。多くのビジネスパーソンが、WEB会議やチャットツールの使い方など、個別のノウハウには習熟してきているように見えるが、置き去りにされたままなのが「テレワークのマネジメント」手法だ。
これまでと違い、目の前にいない「見えない部下」を相手に、どのように育成し、管理し、評価していけばよいのだろうか? その解決策を示したのが、パーソル総合研究所による大規模な「テレワーク調査」のデータをもとに、経営層・管理職の豊富なコーチング経験を持つ同社執行役員の髙橋豊氏が執筆した『テレワーク時代のマネジメントの教科書』だ。
立教大学教授・中原淳氏も、「科学的データにもとづく、現場ですぐに使える貴重なノウハウ!」と絶賛する本書から、テレワーク下での具体的なマネジメント術を、解説していく。
テレワークは自分の位置を相対化できない
テレワーク時の不安感を2020年の4月、5月、11月で比較した下記の図表を見ると、「相手の気持ちがわかりにくい」「出社・出勤する同僚が不公平感を感じていないか」といった不安感は4月から5月にかけて減少傾向にあるものの、「上司から公平・公正に評価してもらえるか」「成長できるような仕事を割り振ってもらえるか」といった上司に対する不安感やキャリアに対する不安感は横ばいのままです。
これは「会えないなかでも、本当にきちんと自分の仕事を見てくれているのか?」という、上司の観察力に対する不安の表れだと言えるでしょう。
なぜ、テレワークになった途端にこうした不安感が顕著になるのか、考えてみましょう。
出社して仕事をしていると、上司が自分以外の誰かを褒めたり、厳しいフィードバックをしたりしている場面を目にすることがあります。仲間同士の雑談から、誰かが叱られたとか、誰かの評価が上がっているとか、そうした噂話を耳にすることもあるでしょう。
そうした様子を見聞きしながら「自分は同じ案件でも叱られなかったから、良い方なのではないか」「あの人は上司に声をかけてもらっていたけれど、自分は何も言われていないから期待されていないのではないか」などと相対的に自分を位置づけ、そこから自分の行動を省みたり、次の戦略を練ったりすることができていました。
頼りになるのは上司の言葉だけ
テレワークになると、そうした場面が一切見えなくなるため、集団のなかで自分を相対化することができなくなります。そうすると頼りになるのは上司の直接的な言葉だけになるわけですが、ここで声をかけてもらえないと「自分は見てもらえていない」という気持ちは非常に強くなってきます。
そもそもテレワークで不安感、孤独感を感じている人は、評価についてナーバスになっているもの。そこへきて、自分の価値を推し量る基準がなくなってしまうと、一気に不安感に押しつぶされてしまうのです。
若い世代ほど見てもらいたがっている
また、本書で紹介している別の調査では、「上司から公平・公正に評価してもらえるか」という不安は、若い世代ほど高く出ていました。
その理由として、ひとつには若い世代ほど学校や家庭で手取り足取り、付きっきりで指示されながら褒められて育ってきた傾向がある、ということが言えるでしょう。昭和世代は「いいからやっておけ!」「まわりを見て自分で学べ!」と放っておかれることも多々あり、見てもらえないことに慣れていましたが、いまの若い世代は違います。
とくに新入社員の場合は、そうした学生気分をひきずっている上、周囲との関係性がつくれないままテレワークに突入したことで「見てもらえていない」という感覚を強くもち、それが評価不安、離職意向へと向かっていく恐れは大きくなります。
「見てもらっている感」を持ってもらうためには、本書でも説明する通り、定期的な1on1(1対1の面談)をZoomなどで実施して、部下の話を聞くのはもちろんですが、日常業務の中で、以下のようなタイミングでちょっとした声かけをするだけでも効果があります。
・資料や企画書を受け取ったらすぐに、受け取った連絡やざっと目を通した感想を伝える。
・朝礼や夕礼の際、直近の数日で目立った動きのあった部下にはその感想やねぎらいなどを伝える。
・オンライン会議はいきなり本題に入らず、アイスブレイク的な意味合いも兼ねて、「この前のあの件、よくやってくれたな」などと別件についての感想も一言伝える。