あるいは、枝野氏は一見愚かなふりをして、「不信任案は解散」という言質を定着させた上で、豹変して不意打ち的に不信任案を提出しようとしているのだろうか。それならば、いくらか分からなくもない。

 野党側としても、「われわれは、コロナ対策をこうする……」という対案が必要だ。また、政策にプライオリティーを付けて、合意できる範囲を決めて野党間の選挙協力をまとめる必要があるが、今の状況で総選挙を行うと野党の獲得議席数は増えるのではないか。少なくとも、野党が解散を怖がる状況ではないように思われる。

 なお、世間にあって官庁の縦割りがしばしば批判されるが、「野党の縦割り」も解決しないと野党全体が機能しない。第一の目的は国民にとって良い政治を行うことなのだから、もう少し頭を使って、行うべき妥協の順番を考えてもらいたい。

 野党側にこうした策略がないのだとすると、国民はどんな悪政になっても、そしてコロナがひどくなればなるほど、野党は政府・与党と本気で戦ってはくれないのだと覚悟を決めざるを得ない。

国民の本音はオリンピックより給付金
「サーカスはいいから、パンをよこせ!」

 他方、政府・与党は、東京オリンピック開催を諦めず、オリンピックさえ開いてしまえば国民が政府に好感を持つと期待しているかのように見受けられる。まるで、「パンとサーカス」で大衆を操ろうとした古代ローマの為政者のようだ。オリンピックは巨大なビジネスの一環であり、ずいぶんカネのかかるサーカスだが。

 そして、元々心配されていた新型コロナウイルスの変異株が全国各地に蔓延しつつある現状や、進行が極めて遅いワクチン接種、医療体制のひっ迫などの状況を見ると、現在の政府やオリンピック関係者に対して、「信頼できない」というのが過半数の国民の実感だろう。

 一方、コロナ禍は勝ち組と負け組の格差を拡大する「K字経済」を招くと言われるように、ビジネスごとに大きな差があるが、「K」の字の右下向きの側の企業・人々の困窮度合いは、緊急事態宣言が出されるたび、期間が延びるごとに深まっている。

 今回の宣言延長では、イベントなどの部分的観客受け入れや商業施設などの休業要請を時短要請に変えるなど、コロナの感染者数や死亡者数が改善していないにもかかわらず、制限の一部緩和が見られる。これは、休業補償の財源を出し渋りたい政府側の思惑と共に、事態の長期化に備えた「持久戦策」の意味合いがあると覚悟しておく方がいいだろう。