昨年3月、フィリピンではドゥテルテ大統領による即断で、全学校が一斉休校になった。語学留学で有名なセブ島には、多くの日本人留学生がいたが、一気に混乱に陥った。語学学校側は、膨大なキャンセルへの対応をどうしたのか。そして、飛行機が欠航し帰国できなくなった邦人はどうしたのか。さらに働く場を失った英語講師をはじめとするスタッフについてリポートする。(大人の英語習得法リサーチャー 高野美穂)
世界中で起きた前代未聞の留学キャンセル
「長く留学エージェントをやっていると、これまでも天災などによる留学プランの変更ということはありました。例えば、アメリカでテロがあったから行き先をカナダにしようという具合です。しかし、今回は世界的な留学の中断。30年、40年という歴史を持つエージェントでも、今回のような対応には前例がなかったはず」(スクールウィズ代表取締役 太田英基さん)
このコロナ禍で、セブ留学において「返金問題」という言葉がネットをにぎわした。感染拡大によるやむない留学の中断後、未消化分の返金比率を巡る問題だ。しかし、複数の関係者に聞き取り取材をしたところ、入学時に結んだ契約を破っている学校はごく一部の例外を除いてなく、今回のような天変地異が起こった時のキャンセルポリシーは事前に書面で準備されていた。
ではなぜ、このような言葉がネットで騒がれたのか。セブ島の語学学校は生徒と経営側の距離が近くなりやすい。よって双方が、比較的、密にコミュニケーションをしてきたため、トラブルになりやすい関係だったことが考えられる。
欧州留学と比較すると分かりやすい。エージェントを介して欧米の語学学校への留学を予定していた場合、交渉の余地は一切なく、全世界一律で入学時の契約に沿って返金されたはずであり、言葉の壁もあって、これが大きなクレームになることは少ない。しかし、セブ留学の場合は、SNSを介して日本語でメッセージやクレームを送ることもできてしまう。どこかの学校が100%返金したと聞けば、どうして自分の学校はそうしてくれないのかという気持ちになるのも分からなくはない。
「自分は留学エージェントをしつつ、スクールを経営している立場であるけれど、今回のような状態で、生徒として留学をしていて、返金規約に沿った対応しかされなかったらやはり不満に思ったかもしれない」(留学情報館代表取締役 大塚庸平さん)
時間的・予算的な問題で、一生に一度しか機会がない人もいる留学。再挑戦するためにも、根気強く返金を求める受講生の気持ちもわかる。一方で、学校はキャンセルポリシーを破ってはいないし、事業が窮地に立たされる中、こうしたクレーム対応に心をすり減らしてしまったスタッフも多くいたようだ。