中国軍が台湾に攻め込んで工業を破壊し大混乱を招けば、中国にとり重要な台湾からの部品、資材の供給が停止し経済的にも大損害となる。さらに仮に台湾を”回復”したところで、2300万人の台湾島民の統治に長期間、苦労せざるを得ないだろう。

 一方で米国や日本にとっても「台湾有事」、「米中戦争」となれば甚大な犠牲を強いられる。

 もし台湾が独立宣言をし、中国が攻撃して米中戦争になれば、日本の輸出の24%は中国(香港を含む)向けだから、日本経済に大打撃となる。

 米中戦争では、中国が日本にある米軍基地、嘉手納、岩国、三沢、横須賀、佐世保などに中距離ミサイルを発射するのは当然だろう。その際ついでに東京などの都市を攻撃する可能性が高い。

 米国の海軍は中国海軍に対し圧倒的に優勢だから、海上封鎖は可能だ。だが中国の食料自給率は、大豆を除くとほぼ100%だ。石炭が豊富でエネルギーもほぼ自給でき、ロシアから天然ガスなどの輸入も可能だから、封鎖で屈するとは思えない。

 仮に米軍が首都制圧を狙って黄海奥の天津付近に上陸作戦を敢行しても、そこから北京へは約180キロある。

 これは第2次大戦で米英軍が上陸したノルマンディからパリへの距離に匹敵する。このときは130万人が上陸、地元のフランス人レジスタンスの協力もあったが、この正面を守るドイツ軍40万人を駆逐してパリを解放するのに80日以上もかかった。

 仮に米軍が北京を占領できても、日中戦争で首都南京を失った蒋介石が内陸の重慶にこもって140万人の日本軍に対して抗戦を続けたように、中国全土を支配するのは大変だ。

 米陸軍は48万人余りで海兵隊が18万人、これに対して中国陸軍は96万人余りと海兵隊3万5000人、武装警察が50万人という規模だ。しかも近年、陸軍の装備の近代化が進んでいる。

 中国の人口はベトナムの約15倍、面積は30倍だから、長期戦と巨額の戦費で米国が疲弊し、結局はイラク、アフガニスタンからの撤退と同様、中国からも撤退する公算は高い。

 こうしたことを考えると、中国、台湾だけでなく日本、米国にとっても、台湾の「現状維持」が国益に合致する。日本は安全保障戦略の上でもそれに向かうよう尽力するのが得策だ。

(軍事ジャーナリスト 田岡俊次)