ある日突然、異動や転職などでリーダーを任された。
配属先は慣れ親しんだ場所ではなく、
すでに人間関係や風土、文化ができ上がっている
“アウェー”のコミュニティ(会社組織)。
右も左も分からない中、
「外から来た“よそ者”」の立場で、
いきなりリーダーを任されるケースも
少なくありません。
また、多数のエンジニアを率いる非エンジニアの
リーダーなど、自分の専門外の領域でチームを
まとめなければならない
「門外漢のリーダー」も増えています。
今の時代、「よそ者リーダー」がリーダーの
大半であるといっても過言ではありません。
しかし、「よそ者リーダー」がどのように
チームを率いるべきかについては、OJT(現場で
やりながら身につける)しかないのが現状でしょう。
そこで、新規事業立上げ、企業再生、事業承継の
中継ぎetc.10社の経営に関わった
『「よそ者リーダー」の教科書』の著者・吉野哲氏が
「よそ者」こそ身につけたい
マネジメントや組織運営のコツについて伝授します。
今回は、よそ者リーダーが避けて通れない第一関門、
「着任あいさつ」についてお伝えします。
(構成/柳沢敬法、ダイヤモンド社・和田史子)

「よそ者リーダー」の教科書、著者の吉野哲氏による、着任あいさつでこれだけは言ってはいけないこととはPhoto: Adobe Stock

「長くても3年で本社に戻ろうと思っています」

「経営再建を託されて社長として出向してきました。
早ければ2年、長くても3年で本社に戻ろうと思っています」

――これは私が知り合いから聞いた、ある会社での新社長の着任あいさつです。

「え、信じられない!」と思った方は、正常な感覚の持ち主。そのとおりで、言った本人に他意はなかったそうですが、着任あいさつとしては大失言と言えるでしょう。

「来た日に、帰る日のことを言うなよ」──案の定、従業員たちは“ドン引き”し、その場は一瞬でシラケてしまったそうです。
従業員たちは、よそからやって来た新しい社長の最初の一言を、不安と期待が入り混じった感情とともに聞いています。
会社の経営が厳しい状況下なら、なおさら“本気度”を伝えてほしいと思っているでしょう。

この人は何をどう考えているのか。
この人に会社を預けて大丈夫なのか。
経営者として信頼できる人なのか。

“よそ者社長”にとっての最初のあいさつは、単なる「自己紹介」ではありません

「社長としての覚悟と決意」を、そして「自分は“よそ者”ではなく、この会社の一員」という肚を括った姿勢を示すものです。
だからこそ、のっけから「いずれ本社に戻る」などと言い出すのは絶対にNG
着任早々「腰かけのつもり」「早く本社に帰りたい」といった消極的な姿勢を見せるリーダーになど、誰もついていかないでしょう。
本当は来たくないのに、社命だから仕方なく来た──こんな後ろ向きの気持ちが伝わってしまうのは、着任する本人と迎える従業員、どちらにとっても不幸です。

この人は、本気で会社をよくしようとは、考えていないんじゃないか。
しょせんは“よそ者”だから、この会社のことも他人事なのだろうな。

覚悟がある人の言葉にはその決意の程が、覚悟のない人の言葉には他人事的な気持ちが、自然とにじみ出てくるもの。
たとえ本意ではない親会社の人事であっても、期間限定でいずれ離れることが決まっていても、社長を引き受ける以上は、会社に対して他人事のような言葉を発するべきではありません。しかし、実際に「腰かけ社長です」と公言してしまう人も、驚くほどたくさんいるのです。

また、こうした覚悟のなさや他人事の意識は、着任あいさつに限らず、普段の言葉の端々からこぼれ落ちるケースもあります。
例えば、社外の人に、
この会社は〇〇ができていないんです」
「だからこの会社は〇〇なんです」
社内でも、
この会社は何でこうなんだ」
のように、自分が任された会社をこう呼ぶ人がいます。
しかし、これもリーダーの本気度を疑われる、避けなければいけない表現です。
「わが社」「ウチの会社」という一人称ではなく「この会社」――会社と一定の距離を置いているような表現は、従業員に「社長にとって会社は他人事」と感じさせてしまう恐れがあるのです。

言葉は、発する人の心を形にしたものです。だから、最初のあいさつから「本気の覚悟と決意」が伝わる言葉で話す。

よそ者だからこそ、常に「私が」「自分が」「わが社が」という一人称を主語にして話す。
アウェーでの社長業はそこから始まるのです。

※「よそ者リーダーとはどんな人か」「よそ者リーダーが身につけたい3つの心構えやマネジメントとは何か」については、本連載の第1回も併せてご覧いただければと思います。

次回は、よそ者リーダーが「新天地で求められているもの」についてお伝えします)