ある日突然、異動や転職などでリーダーを任された。
配属先は慣れ親しんだ場所ではなく、
すでに人間関係や風土、文化ができ上がっている
“アウェー”のコミュニティ(会社組織)。
右も左も分からない中、
「外から来た“よそ者”」の立場で、
いきなりリーダーを任されるケースも
少なくありません。
また、多数のエンジニアを率いる非エンジニアの
リーダーなど、自分の専門外の領域でチームを
まとめなければならない
「門外漢のリーダー」も増えています。
今の時代、「よそ者リーダー」がリーダーの
大半であるといっても過言ではありません。
しかし、「よそ者リーダー」がどのように
チームを率いるべきかについては、OJT(現場で
やりながら身につける)しかないのが現状でしょう。
そこで、新規事業立上げ、企業再生、事業承継の
中継ぎetc.10社の経営に関わった
『「よそ者リーダー」の教科書』の著者・吉野哲氏が
「よそ者」こそ身につけたい
マネジメントや組織運営のコツについて伝授します。
今回は、よそ者リーダーが背負う
「イノベーションへの期待」についてお伝えします。
(構成/柳沢敬法、ダイヤモンド社・和田史子)
変化への期待と反発―。
「よそ者」に抱く、相反する感情
新しい社長、特に外部から来た“よそ者”社長が背負っているのは「イノベーションへの期待」です。
経営再建や事業の立て直しを果たすためには、既存事業の健全化だけでなく、会社の事業資質を活かした「イノベーション」が求められます。
進路を見失いそうな船にとって、船頭を代えることは新しい航路へと舵を切り直すための最有力手段です。新しい船頭を迎えた船乗りたちが、これまでとは違う舵取り=既存にとらわれないイノベーションを望むのは当然のこと。
イノベーティブな組織編成、イノベーティブな人材活用、イノベーティブな商品開発──。新たな経営者にとって「現状を変えるイノベーション」の遂行は、上からも下からも(親会社からも、従業員からも)求められる、果たすべき重要ミッションになります。
しかし新天地に赴いて早々に「従来のルール」や「様式」を変えたり、新しい行動を起こしたりするのは、決してたやすいことではありません。
今までにないチャレンジには当然、相応のリスクが伴います。100%成功するイノベーションなどありえませんし、新しさを追求した取り組みが必ずしもプラスの成果に結びつくとは限りません。
そもそもイノベーションとは、既存の枠組みをつぶして再構築すること。従来のシステムや価値観などを「なしにする」ことです。
大ナタを振るって「すでにでき上がっているもの、長く慣れ親しんだもの」をいったんすべてリセットする──。イノベーションを期待されている新しい経営者は同時に、そのリスクとも向き合うことになるのです。
また、どんな組織にも一定数、「変わること」を拒む“抵抗勢力”は存在します。
特に外部から来た“よそ者社長”に対しては「この会社のことを何も知らない人に、好き勝手に会社をいじくり回されるのは御免だ」といった反発が生まれる可能性もあるでしょう。
イノベーションへの期待と変化への反発──。経営再建のためのイノベーションを推進するには、従業員の中に生じるこうした相反する感情に対しても冷静なバランス感覚をもって対峙する必要があります。
そして、そこで求められるのも、やはり「この会社に骨を埋めるつもり」「この会社のことはすべて自分ごと」という経営者としての覚悟です。
経営者が“本気の姿勢”で変えるべきは変え、やめるべきはやめ、残すべきは残す。
そうすることで従業員にもイノベーションへの意識が浸透し、ともに相応のリスクを背負う覚悟も生まれてくるのです。
※「よそ者リーダーとはどんな人か」「よそ者リーダーが身につけたい3つの心構えやマネジメントとは何か」については、本連載の第1回も併せてご覧いただければと思います。
(次回は、よそ者リーダーに欠かせない「スピード感のバランス」についてお伝えします)