時代や環境変化の荒波を乗り越え、永続する強い会社を築くためには、どうすればいいのか? 会社を良くするのも、ダメにするのも、それは経営トップのあり方にかかっている――。
前著『戦略参謀の仕事』で経営トップへの登竜門として参謀役になることを説いた事業再生請負人が、初めて経営トップに向けて書いた骨太の経営論『経営トップの仕事』がダイヤモンド社から発売。好評につき発売6日で大増刷が決定! 日本経済新聞の書評欄(3月27日付)でも紹介され大反響! 本連載では、同書の中から抜粋して、そのエッセンスをわかりやすくお届けします。好評連載のバックナンバーはこちらからどうぞ。
日本と米国では、そもそも「成果主義」導入の背景が違う
米国の映画で、「You are fired!(お前はクビだ!)」と口にする場面を度々目にするのは、前述のように上長にその権限があることが契約書に記載されているからです。
米国企業では日本と違い、人事部ではなく上長が本人の人事権を握っているために、何よりも上長の評価を最優先にする風潮が強くなります。
ゆえにイエスマンが増えて、ただの好き嫌い人事がまかり通るのを防ぐことを目的とし、事業への貢献を客観的な尺度から見るべきであると生まれてきたのが、「成果主義」の評価指標です。
この制度は企業にとっての人件費のコントロールに貢献し、日本企業の内部留保はその後も増え続けたのですが、一方、給与水準が抑えられて国内消費が伸び悩み、おそらく出生数も抑える作用も働いたのだろうと推察されます。
一般的に日本企業においては、「攻め」の社内文化づくりなしに「成果主義」の評価指標を、ただそのまま取り入れると、リスクをとった5段階評価の5は狙わず、3か4あたりの着地を良しとするようになり、全組織が「挑戦」を控えるようになります。
さらに、人事部は人件費率のコントロールが使命となり、人事部からの起案に減点評価が差し込まれやすくなり、経営層も含めて社員全員が失敗を恐れるようになっていきます。
現に、売上や利益が前年よりも少しでも増えていればOKという感覚の経営者やトップは、多いのではないでしょうか。
経営レベルで見ても日本企業の多くでは、事業の「見える化」などをうまく行い、トップの経営判断を支えるべき参謀機能が、残念ながら発達していません。そのような状態で「エイヤ!」と博打のような大きな投資を行ってしまえば、会社存続の危機に瀕する事態にもなりかねません。
「ムダを排除しよう」と、誰もがその優良さを認めるトヨタを引き合いにして、経費低減の重要性を説くのも結構です。
しかし、前述のようにトヨタにはどんなに大変な時でも、挑戦的な「カイゼン」には挑む文化が根底にあります。
その実態を理解せずにコンサルタントの推す、収益を確保するためだけの経費削減スキームばかりが蔓延し、挑戦を控える今の日本企業が出来上がっていったのです。