時代や環境変化の荒波を乗り越え、永続する強い会社を築くためには、どうすればいいのか? 会社を良くするのも、ダメにするのも、それは経営トップのあり方にかかっている――。
前著『戦略参謀の仕事』で経営トップへの登竜門として参謀役になることを説いた事業再生請負人が、初めて経営トップに向けて書いた骨太の経営論『経営トップの仕事』がダイヤモンド社から発売。好評につき発売6日で大増刷が決定! 日本経済新聞の書評欄(3月27日付)でも紹介され大反響! 本連載では、同書の中から抜粋して、そのエッセンスをわかりやすくお届けします。好評連載のバックナンバーこちらからどうぞ。

ビジョンを社内に浸透させるために、経営トップが必ずしなければいけないたった1つのことPhoto: Adobe Stock

事業実態の把握とは、
なぜ顧客に支持されないのかの因果を知ること

 社内でのビジョンの議論を行うにあたって、よく起きるのが、事業実態を踏まえていないケースです。

 企業改革の仕事をやってきて、ほとんどの企業は、自社の事業の実態を的確に把握できていないという印象を持っています。こう言うと、

「何を言っているんですか。弊社は毎月、経営会議において経営状況についての報告を受けて、実態を把握しています」

 と答えられる企業がほとんどです。

 しかしこれが、たとえば、経理からの月次決算の報告がなされているだけだと、先月末で締めたPLとBSと今との変化が語られているだけです。

 もともとは、資金繰りの確認目的で始まった財務、経理の報告が毎月連綿と続き、確かに経営の実態の一側面を表しているのは間違いないのですが、事業の実態を示しているとは言いがたいものです。

 さらに、少し気の利いた経営管理担当がいる場合は、事業の概況をまとめた月次の資料を発表してくれるのですが、それでも多くの場合は、IRで発表されるレベルのチャートをもう少し詳細に踏み込んだ程度に、売上と利益の推移がグラフ化されている程度の報告です。

 事業実態を把握するということは、事業あるいは製品ラインごとに、その成長性と収益状況も伴って把握し、自社の事業において今、何が起きているか、何が顧客に支持されて、何が支持されなくなっているのか、それはなぜかという「押さえどころ」となる因果を知ることです。

 そして自社の持つ「強み」と、これから克服していきたい「弱み」=課題を明らかにしていくことになります。