時代や環境変化の荒波を乗り越え、永続する強い会社を築くためには、どうすればいいのか? 会社を良くするのも、ダメにするのも、それは経営トップのあり方にかかっている――。
前著『戦略参謀の仕事』で経営トップへの登竜門として参謀役になることを説いた事業再生請負人が、初めて経営トップに向けて書いた骨太の経営論『経営トップの仕事』がダイヤモンド社から発売。好評につき発売6日で大増刷が決定! 日本経済新聞の書評欄(3月27日付)でも紹介され大反響! 本連載では、同書の中から抜粋して、そのエッセンスをわかりやすくお届けします。好評連載のバックナンバーこちらからどうぞ。

経営トップの思いだけでは新規事業はうまくいかない。組織に欠かせないあるものとは?Photo: Adobe Stock

現実のものづくりの現場においては、
予期しない変動要素は付き物

 2018年にゾゾタウンを運営していた株式会社スタートトゥデイ(現 株式会社ZOZO)が、ゾゾスーツによる計測データをもとに、カスタムオーダーのスーツ、つまり背広の通信販売を始めました。

 背広は、型紙、縫製、素材特性のバランスを整えて、初めて美しい製品が出来上がります。これらが背広づくりの本当の技術であり、ノウハウと言えます。

 たとえば、ストレッチ性の高いカジュアルな素材のものを除き、背広の上着にはその形を保つために、目に見えない内側に毛芯、あるいは接着芯を使います。この接着芯を使う場合は、生地に接着芯をあてて高熱で接着剤を溶かし、この芯素材を表地の裏側に張り付けます。この時の熱のせいで、表地の生地の縦糸、横糸がそれぞれ伸縮を起こし、裁断の際に使った型紙とは、まるで違う形になることがあります。

 変化の激しい時は、上着の前面部分に当たる「前身ごろ」が1.5~2cmも縮んでしまうこともあり、同じ型紙を使ったはずなのに、まったく着心地の異なる背広が出来上がることなど、ざらにあります。

 さらに最近は、ストレッチ性の高いジャージー素材の生地を使うことも増えてきて、縫い手と現場の指導者のレベルが高い工場を選ばないと、縫製の最中に歪みが生じ、想定していた通りの形にはならずに製品の品質が安定しなくなります。

 これに対応するためには、素材の材質と生地の織り方から収縮を予想し、あるいは実際に試作をしてから、裁断時に使うCAD上の型紙データの補正をするシステムと縫製職人の技術力と工場の選定能力が必要になってきます。

 このように現実のものづくりにおいては、資料の上に表現された、単純化されたスキームレベルのプランには表れてこない変動要素が常に付き物であることは、携わっている方にとっては常識です。